研究最終年度は「外国旅費」を用いて、二度にわたる調査を行った。まず、8月にデンマーク王国からドイツ連邦を中心とする調査では、エコロジーの視点から都市デザインにおける持続可能性の具体的事例を確認した。デンマークのコペンハーゲンでは、自転車を核とする都市交通システムや、デンマークデザインが有する創造性が都市景観に大きく寄与していることを確認した。またルイジアナ美術館やオードロップゴー美術館等が有する「創造性」が、都市景観に果たす重要性を調査した。ドイツでは、前年度に引き続きエムシャーパーク事業の調査を行ったが、エコロジーの視点のみならず「創造性」が、持続可能性のある都市文化形成に重要な役割を果たしていることを確認出来た。次に、2月にイタリア共和国シチリア州の、大震災以降の都市再開発事業を調査した。この問題は、3.11以降の復興プランにおいて、負の記憶とどのように向き合うかという問題を孕んでいる。具体的には、1968年の大地震で崩壊した、ジベリーナ、ポッジョレアーレの調査を行った。二つの都市とも、震災の被害が大きく古い都市を放棄し、全戸新都市に移転したが、ジベリーナの場合は古い街区はアーティスト:アルベルト・ブッリの手により『亀裂』という作品=パブリック・アートに作り変えられた。一方、ポッジョレアーレは廃墟のまま残され、ネクロ・ポリスとして、ひっそり都市の記憶を保存している。しかし、ジベリーナのパブリック・アートを多用する都市デザインも、ポストモダン的デザインのポッジョレアーレも、メンテナンスの悪さが目立ち、経年に疲弊が顕著であり、持続可能性の欠如を露呈している。この事例は、場の記憶を核として都市の美的環境整備が行われるべきであることを示唆しているが、それは美学における持続可能性の有効性を考察する場でもある。
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