最終年度においても、過去二年間に引き続き道宣の『集神州三宝感通録』のうち、歴代各地で特に篤い信仰を得た仏像の霊験説話を集めた巻中について、美術史の見地から全文の現代語訳と詳細な注解をおこなうことを目指し、その成果を年度末2015年3月20日に『美術史料として読む『集神州三宝感通録』―釈読と研究―(八)』として刊行した。総ページ数は、A4版で184頁に達した。 本年度に訳注を完了し公刊したのは、同書巻中の第十四縁から第三十縁まで(『大正新脩大蔵経』巻52、417頁c~420頁a)であり、霊験像として有名な荊州大明寺の優填王像や、涼州番禾県瑞像、新昌石城山弥勒像などに関する重要な記録を含む。注解の項目は総計209にのぼった。その主な項目は次の通りである。 番禾県瑞像とその模造、法量不定、土の聖僧、経行、沮渠蒙遜の丈六石像、床帳、劉宋代の弥勒像、坐形の菩薩像、堂の壁画、小形の金銅像、光背の用材選択、番禺、扶南国の石像、流汗の霊験、中国における優填王像の受容と展開、優填王像の制作に関する諸説、檀像、釈迦による生母摩耶夫人のための忉利天説法、祇桓寺、金毘羅王、図様、大型金銅仏の制作方法、道宣の梁の仏像観、剡県の大石像、造りかけの大仏、石城山と陽岳寺、僧祐による石像の修造と改変、山巌より出現する仏像、重雲殿、江陵の陥落と元帝。 なお、本年度は15名のポスドクおよび大学院生らの研究協力を得た。 三年間の研究期間全体を通して、同書巻中の全五十縁のうち後漢、晋、劉宋、南斉、梁、北魏、北涼時代の記事について、完了することができた。隋・初唐の前提となるこれらの時代の仏教の造形と信仰の動向を、道宣の眼を通しつつ、つぶさにかつ具体的に跡付けることができ、概ね所期の目的を達し得たと総括できる。
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