研究実績の概要 |
最終年度の計画の目的は、1900年前後の日本美術研究の実態の総合的な解明であり、単行本の執筆を予定していた。すでにジョルジュ・ド・トレッサンを中心に約10本の論文があり、さらに未調査の部分を補った。 まず、他の研究家と比べるためにオスカー・ミュンスターベルクの発表論考と論争の経過を分析し、東北帝国大学が購入した彼の旧蔵書の目録を作成した。またブリティッシュ・ライブラリー所蔵のラファエル・ペトリュッチと大英博物館学芸員のローレンス・ビニヨンの書簡から研究者相互の情報交換の模様、評判などを抽出。さらにアンリ・L・ジョリの書簡や論考、編纂した鐔のカタログなどを調査・分析した。ついで日本から欧米向けに発信した美術史を押さえるべく、英文版雑誌『國華』と美術全集『真美大観』等を調べあげ、出版・広報戦略から叙述や図版までを分析し、上記研究家の論考及び、フェノロサやブイなど北米の同時代の美術研究家に与えた影響などを比較した。さらに東アジア美術研究が盛んになった状況を押さえる必要が出来、中国の古典絵画論、各国の中央アジアの莫高窟調査とその成果を調べ、上記研究家の論考への反映のされ方を具体的に検証した。 最終的に一次資料の翻刻、参考文献、書誌四本を含む全398頁の『国境を越えた日本美術史 ジャポニスムからジャポノロジーへの交流誌1880-1920』に結実させた。 海外では仏語で一本発表、さらに拙論「二〇世紀初頭の鐔研究-ジョルジュ・ド・トレッサンを中心に」がAlain Briot博士によって翻訳され、 Les etudes sur tsuba au debut du XXe siecle :Georges de Tressan et son entourage として Le Bulletin l’association franco japonaise, n°118と n°119に掲載された。
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