本研究は、両大戦間パリにおける挿絵本文化について、美術史学、比較文化・文学、出版史、日本学など学際的な視野から総合的に検証を行った。この間、パリで30冊以上の挿絵本に関わった日本人画家・藤田嗣治を起点としつつ、「文学者」「画家(美術家)」「出版人」「版画工房」の相互交流と成果を具体的に掌握することを目指した。三年間の研究期間内に、「藤田嗣治と愛書都市パリ展」(2012、北海道立近代美術館、渋谷区立松濤美術館)、「藤田嗣治 本のしごと展」(2013、千代田区立日比谷図書文化館)の実現に協力し、その場と連動しつつ、2012年には北海道立近代美術館(札幌)、2013年には日仏会館(東京)で国際シンポジウムを開催した。その報告書もかねて、研究関係者16名による論集『テキストとイメージを編む 出版文化の日仏交流』(林洋子、クリストフ・マルケ編)を2015年2月に刊行した。日仏会館では、同会館が主催する江戸の出版文化研究会と協働することで、「両大戦」の前段となる19世紀の状況にも視野を広げることができた。同書は二部構成で、第一部「媒体としての書物 文化を超えて結ぶかたち」では日本とフランスの出版文化の双方向的な交流を19世紀後半を中心にたどり、第二部「場としての書物 テキスト、イメージ、媒介者」として両大戦間のパリの挿絵本出版における、著者・画家以外の第三の存在=編集者、プロデューサー的な媒介者を具体的に浮かび上がらせた。この分野に関心を持つ研究者のネットワークをより若手に広げる機会ともなった。今後は、2016年春に西宮市大谷記念美術館で関連展覧会が予定されており、その際に向けて再度、研究発表の場を準備したい。
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