日本絵画に使われる彩色材料の中で、白色顔料は古代から中世にかけては鉛白が中心だが、近世の絵画では胡粉が主として使われている。そこで本研究では、白色顔料の転換点に近いと考えられている室町期から江戸期の日本絵画を中心に、彩色材料に関する非破壊・非接触の科学調査を実施し、用いられている白色顔料の種類とその利用方法を明らかにすることが目的である。 本研究課題の最終年次として、多くの日本絵画を調査して白色顔料に関するデータを集積するともに、これまでに実施した調査データの整理・解析とまとめを行った。桃山期に描かれたと考えられている初期洋風画の代表作、洋人奏楽図屏風(永青文庫美術館所蔵、重要文化財)については、平成24年度に解体修理の途中で彩色材料調査を一部実施していたが、今年度修理完成後に改めて光学調査を実施した。その結果、白色顔料のほとんどは鉛白であるが、盛上げ彩色が行われている部分において胡粉が使われていることが見出された。また、江戸初期に製作されたと考えられる伊勢参宮図屏風(名古屋市博物館所蔵)については、白色の彩色材料には胡粉が主として使われているが、作品の主題である伊勢神宮の壁や鳥居の部分にだけ鉛白(胡粉との重ね塗り)が使われていることが見出された。 鉛白から胡粉への転換点に近い桃山期あるいは江戸初期の絵画において、両顔料が併用されている作品をいくつか見出すことができ、白色顔料の変遷に関する実態の一部を明らかにすることができた。
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