最終年度には、国内で奈良の個人コレクター、広島県立美術館、大阪市経済戦略局文化部文化課(大阪市新美術館業務担当)での調査を行った。この調査および初、次年度の研究の成果として、特別展「更紗の時代」(平成24年10月11日~11月24日)を開催した。 本研究の目的として、(1)インド更紗の貿易名と現存する裂の同定(2)インド更紗受容の歴史的背景(3)インド更紗の日本の産業への影響をあげた。(1)については、同展図録所収の小論「17-18世紀の記録に残る貿易布の名称について―サルピカード、ギンガム、ササーグンタスとは何か」に論じたように、3種類のインド貿易布の名称と、日本に舶載された布との同定に成果を得た。特にサルピカード(霜降更紗)については、小論発表後1630年代にオランダにもたらされた記録があることがわかり、オランダがインド貿易布を自国用に輸入しはじめた時期を、定説より50年程早める結果となった。また、研究目的の(2)については、更紗受容を促した人物として、江戸初期の小堀遠州、中期の木村蒹葭堂、後期の松平不昧が与えた影響を調査した。結果として、中期には木村蒹葭堂よりも、蘭宿の定式出入商人・三井家と関係の深い円山応挙によって、更紗が描かれる対象になったことに注目すべきであるという結論に至った。(3)については、小堀遠州あるいはその周辺で、特注の更紗が制作されていたことがわかり、遠州がインド更紗を茶の湯に取り込んで日本の文化に根付かせたのみならず、和更紗制作にも関与した可能性がでてきた。 最終年度のインド調査は、展覧会の後に行なった。貿易と産業という側面に注目したゆえに、インド国内の需要についての調査の必要を感じ、デリーでのデカン高原文化のシンポジウム参加とデカン高原の中心地、ハイデラバードでの作品調査に特化した。今後は生産国インドのあり方を十分検討した研究を行いたい。
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