研究課題/領域番号 |
24520131
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴木 幸人 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (30374169)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 天神信仰 / 在地縁起 / 縁起絵 / 絵解き / 松浦武四郎 |
研究概要 |
「天神在地縁起」に関する資料および図像の収集のために、作品調査と資料収集、分析考察を行った。実地調査は、東京方面、関西方面、山口・福岡方面、あわせて5回行った。おもな研究実績、成果と進捗状況を以下に示す。 (1)近世版本類における天神在地説話の収集:「道明寺鶏鳴説話」「明石駅長説話」および「綱敷天神説話」「水鏡天神説話」について、近世の版本類および縁起絵等から資料、図像収集を行った。 (2)松浦武四郎の天神信仰、とくに「天神双六」の考察:幕末の文人・松浦武四郎がその晩年に作成した「聖跡二十五社巡拝双六」(武四郎天神双六、明治19年)について、武四郎の紀行文の読解にもとづき、その成立の事情や意図について考察を試みた。その成果は、近世の各種双六、他の天神双六等との比較考察も加えて、北海道芸術学会第20回例会において、「双六・巡礼・天神信仰」(2013年3月17日、北海道立近代美術館)として発表した。武四郎の天神信仰には、各地に残る在地縁起の母体を、左遷途上の道真を「客人としての神」と捉えた可能性が示されており、近世から近代にかけての天神信仰形成に重要なものと考えられる。 (3)松崎天神縁起絵巻の再検討:山口県防府天満宮所蔵の重要文化財「松崎天神縁起絵巻」の再検討を試みる研究会に参加した。同絵巻は、従来、天神在地縁起の最古の作例として知られるが、近年の中世絵巻研究の成果を踏まえて同絵巻の位置づけについては再検討の必要があると思われる。天神在地縁起研究にとってもきわめて重要な点であると言わねばならない。 (4)ギメ美術館本天神縁起絵巻について:現京都府長岡京市に伝来したギメ美術館本について、「フランス国立ギメ東洋美術館蔵・太政威徳天縁起―天神縁起絵の系譜における位置―」(『長岡天満宮資料調査報告書 美術・中世編』)を執筆し、その伝来および図様の特色について論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に照らして、おおむね順調に進捗している(①、②、③)が、以下の点で若干の遅れが生じている(④)。 ①これまでの調査資料・データの再構築:これまでの調査研究で収集していた資料・図像のデジタルデータ化、分析・整理等は順調に進められた。 ②関連資料・書籍・図版の調査・購入:近世以降の天神縁起絵、天神画像の写真図版を掲載する書籍、雑誌をはじめ、とくに松浦武四郎の天神信仰に関係する資料、「天神双六」各種等の、重要な資料の購入入手が果たせた。 それらにもとづいて、③松浦武四郎の天神信仰研究:天神在地縁起研究に重要な視点を提供してくれる松浦武四郎の紀行文等の調査読解を行うこと、および近世以降数種制作が知られる「天神双六」についてその在地縁起との関連に着目して調査を行うことができた。 しかし、その調査、分析作業を重視したため、④近世版本類(「絵本菅原実記」「天神記図会」「天満宮実伝図会」)の翻刻註釈作業、とくに「絵本菅原実記」(同種の図会絵本のなかでも最大の規模であり、菅原家にまつわる様々な周辺説話も盛り込まれる天神説話の集大成とみなされる)の調査分析に遅れを生じてしまったことは否めない。次年度以降にこの点を優先して分析を試みたい。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画にもとづきながら、以下の3点を中心に、天神在地縁起研究を進めていく。 (1)近世版本の翻刻註釈作業:とくに前年度遅れを生じた「絵本菅原実記」(同種の絵本のなかでも最大の規模であり、天神説話の集大成とみなされる)の調査分析について最大限の努力を払いたい。 (2)(1)の成果にもとづきつつ、演劇における天神在地縁起データ収集と分析:近世の演劇(浄瑠璃・歌舞伎「菅原伝授手習鑑」「天満宮菜種御供」等)、近代の演劇(大仏次郎「魔界の道真」、谷崎潤一郎「少将滋幹の母」等)、に関する絵画、図版資料(浮世絵版画、芝居番附、雑誌等からデータを収集し、近世・近代演劇にあらわれる「在地縁起」「菅公図像」がどのように表されているか、どの場面が採用され、いかなる人物として描き出されるか、それらがもとづく近世以前の図像やイメージは何か、などについての観点から分析を進める。とくに「菅原伝授手習鑑」は、初演以来250年余りにわたって、われわれの天神菅公イメージを反映し形成してきたと思われるので、戯曲全体の主題、構成、演出はもとより、上演形態、「菅丞相」の演出の変遷をたどり、菅公イメージの変遷(荒神、忠臣、文神…)と結びつけて考察する。また明治以降の「教科書」「歴史読物」、「唱歌」にあらわれた菅公イメージは、近世演劇で培われた菅公イメージを展開補強するのでデータを収集しておきたい (3)松浦武四郎の天神信仰:ひきつづき、松浦武四郎の天神信仰について、その著作(紀行文等)の解読を行いたいが、武四郎自身も歌舞伎芝居の「菅原伝授手習鑑」等に強い関心をもっていたようなので、(2)も踏まえつつその具体的な展開のひとつとして、幕末から明治初期に形成された天神信仰の一側面の解明を試みたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
今回の未使用額(23,618円)は、平成24年度の旅費であったが、その支払が平成25年4月(次年度)になったため発生したものである。
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