「天神在地縁起」に関する作品資料の調査分析を行った。実地調査は、東京方面、関西方面、福岡方面、あわせて5回行った。以下に主要な内容を示す。 (1)在地縁起絵の調査分析:これまで未紹介の掛幅形式の縁起絵である京都吉祥院天満宮所蔵の掛幅形式(12幅)天神縁起絵について、内容と様式の点から調査分析を行った。同宮独自の説話である吉祥天女信仰にかかわる在地説話や、太宰府系天神縁起絵と共通する霊験説話などの内容面での特色、および図様には北野縁起絵巻弘安本系の利用する作例であることなどの様式面での特色を指摘し、これまで知られる掛幅形式縁起絵とは別系統の一群の存在を示唆する可能性を示した(このことについて松崎天神縁起絵巻研究会で口頭報告を行った)。また在地縁起の図様に関わるものとして、武蔵寺縁起絵(福岡県筑紫野市武蔵寺所蔵)をはじめとする「菅公御自作」説話に関する縁起絵、図像を調査収集につとめた。 (2)綱敷天神像の調査分析:岡路八幡宮(静岡県富士宮市)の綱敷天神坐像の調査分析を行った。「綱敷天神」は天神在地説話の代表的なものであり、単独の掛幅画像がよく知られ、彫像もしばしば見受けられるが、岡路八幡宮の坐像は近世半ばの製作ではあるが、敷いた綱の端を菅公が手に握るという特異な図像を示すもので、その伝来および図像の特色について考察を試みた。その他、綱敷天神説話や図像について、大阪市北区綱敷天神社の説話に題材をとったという演劇の作例(明治末年初演「菅公」等)を中心に関連の図像収集につとめた。 (3)天神双六の調査:聖跡二十五社巡拝双六(松浦武四郎の天神双六)の研究に関連して、北野天満宮参詣双六(嘉永5年)等の天神双六の実見調査を行った。 そのほか引き続き、近世版本の翻刻註釈作業、山口防府天満宮所蔵の松崎天神縁起絵巻の再検討を試みる研究会に参加して、天神在地縁起に関する図像収集分析を進めた。
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