筆者は専門の古代ギリシア哲学の研究において、著名な著作家の多くが音楽現象に関心を払っている事実に注目し、特にプラトンにおける半ば専門的な言辞を述べる著作(特に『ポリーテイア(国家論)』と『ノモイ(法律論)』)に啓発されて、この道に踏み込んだものである。さらに、その過程において、古代ギリシア音階の独特の味わいがプラトンの存在論的思考に調合する事実に気付いた。以来、古代ギリシア音階に特殊な意味を認めて、音階の独特な形式がプラトン哲学の文体の抑揚に対応しているとまでも感じ入ってきたものである。この感興は単に個人的な印象にはとどまらず、思想のエートスの現れとして受け容れて、その由来の究明に努めた。 考察の焦点は、プラトン哲学のキーワードであるイデア概念の根源にあると見込まれた情念の具体的な形態を探る点にある。プラトンにおいてイデアはこの情念の衝動において美しく形象化されるが、その形象はイデアを追求する魂(精神プシューケー)の具体的な動きと一体化されている。本研究の目的は、この一体化された形態を日常的な言語で了解する点にある。
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