研究課題/領域番号 |
24520136
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
元木 幸一 山形大学, 人文学部, 教授 (10125669)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 農民祝祭版画 / ベーハム / 宗教改革 / ドイツ・ルネサンス |
研究概要 |
(1)図像学的研究:ニュルンベルクのゲルマン民族博物館、ゴータ城博物館、エアフルトのアンガー美術館などに所蔵されているドイツ・ルネサンス美術資料を調査し、農民祝祭版画の諸モティーフを集成した。踊りに関してはハンス・ヴァイディッツ《踊りに急ぐ農民カップル》、飲酒に関してはエアハルト・シェーン《売春宿》、歯医者に関してはルーカス・ファン・レイデン《歯医者》などを重要な作例として、探究を進めた。 さらにガイスベルク、バルチュなどの版画集に基づいて、これら諸モティーフのカタログ化を一層推進した。 (2)歴史的研究:ゼーバルト・ベーハム《大ケルミス版画》と《メーゲルドルフのケルミス》を比較し、メーゲルドルフのケルミス祝祭の歴史的意味を考察した。さらに、その祝祭が宗教改革により、どのような変化を被ったかを研究した。さらに、《大ケルミス版画》に描かれた教会とニュルンベルク近郊メーゲルドルフの聖ニコラウスーウルリヒ聖堂との類似性を提案した。 (3)(1)(2)の成果を論文「酒宴の表象―ゼーバルト・ベーハム『ケルミス大版画』の分析―」(『世界の感覚と生の気分』所収)として発表した。 (4)農民祝祭版画における笑いの研究:大衆芸術のもっとも重要な要素は笑いであり、農民祝祭版画における笑いの要素を分析するために、同時期におけるヨーロッパ美術のユーモア表現を広範に研究した。特に、画中の多彩な笑顔の意味を分析し、さらに笑いを喚起する美術表現の手法を分類することで、一つの研究としてまとめあげ、その成果を『笑うフェルメールと微笑むモナ・リザ―名画に潜む笑いの謎』(小学館)として刊行した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)2012年9月に計画通り、海外調査を実施した。ニュルンベルク、ゴータ、エアフルトなどの諸美術館にて、ドイツ・ルネサンス美術作品を調査し、農民祝祭版画に関係するモティーフ等を集成した。特にニュルンベルク、ゲルマン民族博物館で開催された『初期デューラー展』で作品調査を実施することができ、同時代の作例を分析する上で、きわめて有益であった。 また、国立西洋美術館で開催された「クラインマイスター:16世紀前半ドイツにおける小画面の版画家たち展」では、ベーハム及び同時期の作品を多数観察でき、本研究に資するところ大であった。 (2)図像学的研究としては、主要な版画集成から、歯医者、農民の踊り、飲酒モティーフなどを徹底的に調査した。特に、ベーハムと同時代のニュルンベルク版画家に多くの類似点を見いだし、その相互関係を考察した。 (3)歴史的研究としては、ゼーバルト・ベーハム《ケルミス大版画》を具体的作例として、宗教改革との関係から、ケルミス祝祭の実施形態を考察した。その成果はまず論文「酒宴の表象―ゼーバルト・ベーハム『ケルミス大版画』の分析―」(『世界の感覚と生の気分』所収、2012年)に発表した。ただし、まだより詳細な細部の分析が必要である。 (4)農民祝祭版画を美術における笑いの表現という切り口からの分析を意図し、同時期の笑いの表現を広く考察し、その成果を『笑うフェルメールと微笑むモナ・リザ―名画に潜む笑いの謎』(小学館)として発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)図像学的研究:2011年にニュルンベルクにて開催された「ベーハム展」の成果に基づいて、一層細部にわたるモティーフ分析を実施する必要がある。特に、刃渡り、九柱戯、徒競走、行列などの詳細なモティーフを図像学的に分析する。その上で、各グループ相互、各人相互の関係をも観察、分析する。 (2)歴史的研究:それら細部図像の斬新な解釈を試みるために、歴史的研究を徹底させる必要がある。さまざまな遊戯図像を解釈するためにも、宗教改革前後のニュルンベルク史、中世の遊戯史、風俗史などの研究が必要である。 (3)謝肉祭劇との比較研究:さらにまた版画の図像源泉として、ハンス・ザックスに代表される同時代ニュルンベルクの謝肉祭劇を分析する。多様な風俗的モティーフを同時代的の象徴的意味から分析するためには、謝肉祭という無礼講的な場の表現を参考にすることがきわめて重要であろう。それによって、都市民が農民をどのように考え、農村にどのように関わったかを考察することができるのである。 (4)これらの成果を個別的に論文として公表し、広範な批判・評価を受ける。
|
次年度の研究費の使用計画 |
(1)新しい研究資料を入手するために図書費を必要とする。 (2)さらに国内の他研究機関に所蔵されている資料を調査するために旅費を必要とする。 (3)これら研究を進めるためにデータベース作成の補助者として大学院生を雇用する謝金等とこれらの作業を行うための文房具等が必要である。
|