研究課題/領域番号 |
24520136
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
元木 幸一 山形大学, 人文学部, 教授 (10125669)
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キーワード | 農民祝祭版画 / ベーハム / 宗教改革 / ドイツ・ルネサンス / ニュルンベルク / ルーカス・ファン・レイデン / 謝肉祭劇 |
研究概要 |
(1)図像学的研究と歴史的研究:《大ケルミス版画》の主要モティーフ「歯医者」などの図像学的典拠を探究した。「歯医者」モティーフに関しては、ルーカス・ファン・レイデンの1523年の同主題銅版画がもっとも重要な起源であることが判明した。そこで、この銅版画から《大ケルミス版画》にどのように図像が伝播したかを探究するため、当時の版画収集の様相を明らかにしようと試みた。その研究にあたっては2011年の『ルネサンスにおけるルーカス・ファン・レイデン展』カタログ(オランダ、レイデン)やパーシャルの版画コレクション研究を参考にした。その成果は、平成26年7月発行予定の『山形大学社会文化システム研究科紀要』第11号に発表する。 (2)謝肉祭などの研究:《大ケルミス版画》の「歯医者」と並ぶ主要モティーフは、「雄鶏合戦」だが、それは同時代ニュルンベルクで活躍した劇作家・詩人ハンス・ザックスの謝肉祭劇と密接に関係する。彼の謝肉祭劇『盗まれた謝肉祭の鶏』は、当時雄鶏が、ニュルンベルク市民社会でどのような意味を有していたかを明らかにする。それは《大ケルミス版画》の作者ゼーバルト・ベーハムの師だったアルブレヒト・デューラーの木版画《男性浴図》における言葉遊びとも深く関係するのである。der Hahn(雄鶏=男根=水栓)という掛詞的な意味をデューラーは図像化して絵を見る人に謎掛けをしたわけだが、そのような謎掛け自体が、当時の市民社会で雄鶏という言葉が特別な意味を担っていたからだろうと推測されるのである。 このような謝肉祭劇などに反映した市民社会の特殊な意味を一部解明したので、それも上記論文で発表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)2012年度には計画通り、海外調査を実施し、ドイツの諸美術館でドイツ・ルネサンスの美術作品を調査した。 (2)図像学的研究としては、主要なモティーフ、歯医者、農民の祝祭、飲酒モティーフなどを徹底的に調査した。特にベーハムと同時代のニュルンベルク版画家に多くの類似点を見いだし、相互関係を考察した。その成果は2012年の論文「酒宴の表象ーゼーバルト・ベーハム《ケルミス大版画》を具体的例として」に発表した。 (3)歴史的研究としては、ニュルンベルクにおける宗教改革との関係を前期論文において解明し、さらにハンス・ザックスなどによる同時代ニュルンベルクの謝肉祭劇との関係などを深く追求した。 (4)また中世末期からルネサンス期における美術における笑いの研究という観点に関しては、2012年に出版した『笑うフェルメールと微笑むモナ・リザ』(小学館)に発表した。 (5)しかし、2011~2013年にベーハムやルーカス・ファン・レイデンなどの展覧会が開催され、新しい成果が公表され、その成果を取り入れることに時間がかかった。それが2013年度成果を発表することがやや遅れた主要な理由である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)「歯医者」モティーフの源流の探究と、伝播の問題と、謝肉祭劇との関係についての論文は、本年度の紀要などに発表する。 (2)《ケルミス大版画》の全てのモティーフの典拠と同時代的な意味を総合的に解明し、宗教改革などの同時代の社会状況との関係をまとめる。 (3)さらに謝肉祭劇などとの関係を追求する中で、ルネサンス期の都市社会における同時代の多様な表現形式の諸関係をまとめあげる。 (4)これらの成果を研究成果報告書として発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
近年、この版画分野の研究が急速に進展し、その研究成果を把握するために、最新の図書などをも購入する必要がある。 さらに本研究成果は総合的な研究なのでまとめて発表するために報告書を作成する必要があり、その使用予想額が増加する可能性がある。 最新研究を公刊した図書の購入と、本研究成果報告書の出版補助分に使用する。
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