・宗教改革期の農民祝祭版画をハンス・ゼーバルト・ベーハム作《ケルミス大版画》を中心として、モティーフ毎に図像起源、社会的意味などを具体的に分析した。つまり居酒屋、歯医者、雄鶏合戦、ダンス、九柱戯、刃渡り、鶏ダンス、徒競走、競馬のモティーフである。 ・居酒屋は15世紀前半のESの親方、ハウスブーフの画家、bxgの親方、デューラーなどドイツの芸術家を起源とする。それに対し、歯医者はネーデルラントのルーカス・ファン・レイデンを出発点とし、それにドイツの大衆版画に見られるスカトロジカルな意味を付与している。歯医者の中世における実態は、市など祝祭を巡って放浪していたことが詩人ハンス・ザックスなどの作品から判明する。ダンスは当時の社会的状況から身分を規程するものだったが、ここでは明らかに農民ダンスである。また、九柱戯、刃渡り、鶏ダンス、徒競走、競馬なども当時の娯楽として祝祭に催されたものであることが、歴史的に解明される。 ・こうして農民祝祭版画は市を中心とする祝祭をメインテーマとしているが、その利用法と機能を当時の記録と画中版画から分析すると、居酒屋や旅館など大衆が多数集まる場所に展示されたということが分かる。それらは市などにおいて販売された。また版画を詳細に比較すると《ケルミス大版画》は数版制作されたことが判明する。それだけ好評だったのである。 ・《ケルミス大版画》の中心にはマルティン・ルターとおぼしき人物が配されており、より複雑な様相を帯びることになる。1525年のニュルンベルクにおけるルター派公認以後、ニュルンベルクとその支配地域では祝祭は規制され、ケルミスのような祝祭は禁止されることになる。だが、市は容認されたので、ニュルンベルク周辺では二つの市が存続した。その一つがメーゲルドルフの市で、おそらくはこれら祝祭版画は、このメーゲルドルフにおける市を描いたものと考えられる。
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