現在の絵画技法に関する専門用語には、ある一つの内容に関して複数の用語が存在すると同時に、それら複数の用語についても様々な解釈が存在している。このような混乱した状況を踏まえ、1、歴史的な絵画技法の意味を正しく理解するために、技法材料を検証し、専門用語本来の意味を明らかにすること、2、国内外でのすでに混乱している状況を踏まえ、変化した用語の意味をできるだけ多く把握すること、3、研究成果の公開と応用、これが研究の全体構想である。 研究の全体構想の中で、本研究は西洋における絵画の下地にかかわる専門用語を研究対象とし、この5年間はイタリア語圏、スペイン語圏、ドイツ語圏を中心に調査した。具体的には、国立サラマンカ大学、国立バルセロナ大学、国立フィレンツェ美術アカデミー、国立ウイーン美術アカデミー等と研究交流を行った。 西洋では下地にかかわる専門用語として、同じ語源のGrundに類するもの、Preparationの類、Imprimitura(インプリミトゥーラ)の類等が存在した。このうち、インプリミトゥーラについては、我が国で認識されている意味と、イタリアにおいて認識されている意味が全く異なっていることを明らかにした。その原因について、研究当初は邦訳の際の誤訳と考えていたが、西洋でも全く違う意味で使われている場合があるという衝撃的な事実を明らかにした。これは、西洋諸国間においてミスリーディングが生じていることを意味する。 今後はこれまで研究対象としたイタリア語圏、ドイツ語圏、スペイン語圏に加え、近現代絵画で重要な役割を担ったフランス語圏、英語圏を対象とした調査、研究を続け、さらにImprimituraについては意味が変化した理由についても解明したい。
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