研究課題/領域番号 |
24520138
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
劉 賢国 筑波技術大学, 産業技術学部, 教授 (70389716)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 韓国国家文字 / 韓国語活字 / 活字印刷 / 機械化 / 字形 |
研究概要 |
平成24年度は、19世紀から日本、韓国における楷書体の韓国語活字開発に関して出版された印刷資料の発掘を行った。 その結果、1879年に韓国語3号活字(5.56ミリ)が東京築地活版製造所で開発され、1881年に日本から満州「文光書院」に送られたという事実が明らかとなった。以降、『ルカによる福音書』(1882)、最初の純韓国語の『新約聖書』(1887)の刊行などにこの活字は使用された。また、日本人のための韓国語学習書などの刊行にも使用された。 また日本において、1884年に東京築地活版製造所にて韓国人のイ・シュジョンの原図と日本人の竹口正太郎の母型彫刻によって最初の韓国語4号活字(4.81ミリ)が開発されたことも明らかになった。以降、この活字が韓国へ伝播し、韓国語、漢字交じり文を採用した『漢成旬報』(1886)の発刊に使用された。この4号活字は、日本においてルミス牧師の主導による『マタイによる福音書』(1885)などの福音書の刊行や、日本人の韓国語学習のための初めての多言語『明治字典』(1886)の刊行などに使用された。これは後に韓国へ伝播し、純韓国語『独立新聞』(1897)や『毎日新報』(1898)などの新聞の発刊や、民営印刷所に広く普及した。さらに1906年、江川活版製造所の韓国支店が6号活字(2.8ミリ)を開発し、『萬歳報』という新聞のルビに使用された。1908年、秀英社で開発された韓国語2号活字(7.2ミリ)、4号活字(4.81ミリ)は、韓国で「新文館」という印刷所設立の際に機材と一緒に導入された。また印刷技術者の中谷茉歩と矢崎真理を招聘し、韓国最初の雑誌『少年』(1908)などの創刊に関わった。これは、日韓両国においての新たな発見である。またこの研究の基礎調査の間に、楷書体の韓国活字の資料が、日本の活字見本帳から多数発見されたことは、大きな収穫である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度は、「韓国国家文字プロジェクト」の縦組横組兼用のハングル・漢字組版機の活字開発状況などを明らかにすつことが目的であった。そこで日本と韓国、米国において各研究協力者とともに、文字生成システムの開発に伴って変化してきた書体における形態形成の経緯の調査と検証を行った。その結果、1900年代に日本人彫刻師が母型を作り、韓国語活字を開発した活版所を明らかにした。また、東京築地活版製造所において1879年、3号活字(5.56ミリ)、1884年、4号活字(4.81ミリ)、1892年、6号活字(2.8ミリ)、1894年、1号活字(10.22ミリ)、1903年、2号活字(7.35ミリ)、5号活字(3.68ミリ)、が開発されたことを明らかにした。さらに、横浜活版所(現東京印刷株式会社)において1879年、5号活字(3.7ミリ)が開発され、韓国最初多言語『韓仏事典』(1880)の刊行に使用されたことも明らかにした。秀英舎(現大日本印刷)は、1902年、5号活字(3.64ミリ)、1908年、2号活字(7.3ミリ)を開発し、韓国において「新文館」という印刷会社の設立の際に輸入された。青山進行堂活版製造社は1909年、2号活字(7.35ミリ)を開発した。特に江川活版製造社は1907年、2号活字(7.34ミリ)、4号活字(4.82ミリ)、6号活字(2.8ミリ)を開発し、韓国に支店を出店した。この活字は、「韓国龍山印刷局」の規格標準化後に初めて製造された事実は新発見である。また韓国龍山印刷局は、印刷機械販売を江川活版製造社に委託する公告を『大韓毎日申報』(1908.6)の広告に掲載したことが分った。 これらは、日韓印刷活字史において未解明となってきた韓国語活字開発の真相である。特に各日本活字見本帳の中に紹介された韓国語活字(楷書体)資料の調査によって多数発見できたことは、予想以上の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
1)計画:欧米で収集した5つの「韓国国家文字プロジェクト」で開発された組版システムとその印刷活字資料の分析と分類を行う。ハングル活字書体及び漢字活字書体、ラテンアルファベット活字書体を、選定したサンプル文字を使い、各個の活字字形についてその異同を比較検討するとともに、改刻状況を明らかにする。 2)調査:欧米で調査を行う。それにより、「韓国国家文字プロジェクト」での活字印刷資料の中から、日本と韓国で使われている活字書体の字形が同一であるか別字形であるかを判定するとともに、活字の流通経路を明らかにする。また印刷された欧米の書籍から活字サイズの測定と、組版ルールを抽出する。資料調査は、アメリカの「長老会本部」とサンフランシスコの「公立図書館」、ロスサンゼルスの「韓国移民記念館」に2週間、イギリスの「モノタイプ社」と「レンディング大学図書館」、「ケンブリッジ大学図書館」に2週間、フランスの「パリ公文書図書館」、ドイツの「ライノタイプ社」と「国立図書館」に2週間の調査日を当てる。 聞き取り調査については、韓国・日本と同様に金属活字が消滅した現在の欧米においても、当時の現場の状況を早急に記録しなければ失われてしまうおそれがある。そのため、欧米における活字製造業者、活字設計・種字彫刻の職人から聞き取り調査を行いできるだけ多く記録とする。 3)研究成果の公表:平成24年度の調査結果を、日本タイポグラフィの世界(招聘講演と報告書)、世界タイポグラフィ国際会議(ATypI2013)、韓国タイポグラフィ学会(研究発表と査読論文)などにおいて報告する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度研究費(18,320円)は、発見した古文献を取り寄せるための費用として足りなかったため、翌年度の研究費(参考文献・資料費50,000円)と合わせて使用する目的で残したものである。
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