笑芸(落語・漫才・コント)のライブ取材、映像資料からのシナリオの書き取り、公開テキストの収集を行ない笑芸のデータベースを作成した。第一次資料のなかから、preface 部分に相当する「まくら」あるいは「ツカミ」の部分の分析をおこない。時事批評、事物起源、日常観察などのカテゴリーに分類した。第二の段階では、本文テキストに相当するネタをイディオムに分別し、落語では「くすぐり」「小ネタ」などの笑いを生み出す部分を個別の命題間の論理関係に注目してその類型を探り、漫才では「フリ」と「コナシ」、一般には「ボケ」と「ツッコミ」のやはり論理関係を整理して、矛盾、誇張、矮小化、無意味、無視(スカシ)などのテクニックとして再構成を試みた。研究計画後半では、こうした笑芸テキストの創造と科学的発見の創造性との比較対照が行なわれる予定であったが、前半の作業が膨大であったこともあり、発見行為のなかのセレンディピティー(ウォルポールの造語の背景も含めて)に相当する思考過程との比較までおこない、ケストラーの創造の行為のマトリックス理論を確証する結果となった。ここまでは話芸をテキストとして捉えるという制約のもとで研究は遂行されたが、最後に、テキスト化されない「フラ」と呼ばれる話者のパロール的特質に着目し、「顔芸」(表情の変化)、「仕種」(落語の仕方落ちを含む)、および「間」(とくに柳家小三治)が笑いを生み出すメカニズムについて探求した。間による笑いは、観客の側の想像力が前提となっていて、沈黙の間にどのような予測が行なわれたを聞き取り調査する予定であったが、期間内にその段階まで進むことはできなかった。総じていえば、文字テキスト化した笑芸の類型論が主たる研究実績である。
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