本研究は、ゴードン・マッタ=クラークの活動を同時代のランドアートを中心とした動向との関連や、これまで注目されてこなかった素描作品の検討を通じて再評価することを目的とした。従来、彼の活動は主に、近代の都市計画や再開発への批判、あるいは同時代の芸術家で代表的なランドアートの作家とされるロバート・スミッソンとの関係に基づく「エントロピー」概念から論じられてきた。しかし本研究では、マッタ=クラークの活動が、同時代の新たな関係論的世界観と深く結びついたものであったことを、樹木をモティーフとした作品群の検討、素描作品の調査、蔵書調査、インタビュウ音声記録等から明らかにしてきた。 1970年代には、同時代の情報理論やサイバネティクス、エコロジーの概念を前提に、作家による作品の制作・完成というモデルが組み替えられ、状況が関与して変化していく美術作品が制作された。しかしマッタ=クラークの活動は、ランドアートのように作品を野外の自然環境に設置するにとどまらなかった。彼は諸条件と相互に変化する樹木の形象を手がかりに、その活動を都市環境における建築物に展開した。本研究ではマッタ=クラークの建築を切断する作品に対して、近代建築批判としての規格的空間の異化や、崩壊に向かう世界の強調(エントロピー)だけではない、新たな位置づけを試みた。 本研究課題については申請当初、展覧会による作品の紹介とそこでの配布物による成果発表を計画していたが、関係者との調整等から展覧会は先送りされた。そのため、これに代えて平成27年度末に研究フォーラムを企画開催し、平成28年度に研究期間を延長した。平成28年度(最終年度)は、研究フォーラムの記録として報告書を作成し、ゲストによる他の視点も含め、日本語による数少ない作家資料として配布することができた。英文の梗概を付し、海外の研究者や研究協力者にも配布した。
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