研究課題/領域番号 |
24520150
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小野 貴史 信州大学, 教育学部, 准教授 (10362089)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 音楽学 / 音楽美学 / 楽曲分析 / 虚構理論 / 構造方程式モデリング |
研究概要 |
音楽は水平/垂直な音の蓄積や、より大きな枠組みでの楽曲形式など様々なファクターによって時間軸上に構築され展開されるものであるという前提のもと、本研究では複雑な楽曲構造を共分散構造分析によって数理的整合性を算出し、楽曲に内包される様々な因子の因果関係をパス解析図を用いて可視化させる手法を確立させることを目的としている。平成24年度は音楽における時間構造を様々な先行研究をもとに詳細に分析した。ウンベルト・エーコが『開かれた作品』Eco, Umberto ; Opera Aperta (1967)で提唱した音楽における楽曲構造の確率系(レゾー)概念を、言語芸術における虚構理論を援用しつつ考察した。得られた結果として、音楽における確率系構造は数理的に記述すると、不規則現象のメカニズムを享受サイドが推定する時系列解析であり、時系列上に展開される不規則変動(random process)における確率過程(stochastic process)の解析と音楽におけるレゾーの構造は近似しているという結論を導くことができた。また、音楽は“作為”によって物理的時間軸上に音素材が配置された結果による産物であり、架空の出来事(=音楽)を想像的に描く行為(=音素材の配置)である。物語に関する時間論は,受容されるべき作品が“フィクション”であることを暗黙の前提としながら、あたかも現実の時間であるかのように読者が作品を受容する構造の上に成り立っている。では、音楽的時間(≠物理的時間)の上に存在する音楽作品は、「現実」世界に鳴っているが、物語(文学作品)同様に、その構造において時間の虚構性を有してしかるべきである。つまり音楽とは“虚構”の構成原理に即しているという結論を導くことができた。この研究結果は審査付論文『音楽、あるいは虚構(フィクション)としての時間』(信州大学教育論集第6号)にて発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究1年目である平成24年度は音楽構造における確率系(レゾー)の調査とデータ収集に当てるという研究目的を定めた。研究の進捗状況は順調で、音楽音響芸術研究会における口頭発表および審査付学術論文を発表するに至った。また、音楽構造が有する虚構性概念を、言語芸術及び美学理論から定義する学際的領域にまで視野を広げることができた。音楽は“作為”によって物理的時間軸上に音素材が配置された結果による産物であり,つまり架空の出来事(=音楽)を想像的に描く行為(=音素材の配置)である。物語に関する時間論は,受容されるべき作品が“フィクション”であることを暗黙の前提としながら,あたかも現実の時間であるかのように読者が作品を受容する構造の上に成り立っている。では,音楽的時間(≠物理的時間)の上に存在する音楽作品は,「現実」世界に鳴っているが,物語(文学作品)同様に,その構造において時間の虚構性を有してしかるべきである。つまり音楽とは“虚構”の構成原理に即しているという結論を導くことができた。 さらに音楽構造を音価、音強、音の密度分布のファクターに分割し、それらを構造方程式モデリングによって数理的整合性を算出し、そのプロットに従って作品を制作する実験を行い、第11回まつしろ現代美術フェスティバルにて発表した。
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今後の研究の推進方策 |
音楽学領域における虚構の概念は先行研究がほとんどないのが現状であり、さらに虚構理論と音楽芸術の関連について調査・研究を深める必要性を実感している。しかし音楽芸術の内包する現実世界とは異なる可能世界における時間性に着目するならば、音楽における虚構性を立証することは重要な課題となる。その上で、共分散構造分析(構造方程式モデリング)とパス解析の楽曲分析への援用手法を確立する予定である。さらに研究計画書における目的に記した通り、本研究で確立された手法を用いて分析とは逆方向のベクトルである自作の創作へ援用することも考えている。これに関しては平成25年度に長野、東京、ベルリンでそれぞれ作品発表の機会が設けられている。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし。
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