研究課題/領域番号 |
24520156
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
阪井 葉子 (三谷葉子) 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (50243142)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポピュラー文化 / フォークリバイバル / 文化的マイノリティ / 対抗文化 / メディア社会 / 口承性 / ドイツ語圏音楽文化 / 音楽と政治 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、9月から10月頭にかけてドイツへ調査のために出張した。西ドイツのフォーク・シーンで中心的な役割を演じ、東ドイツにも影響を与えたグループ「ツプフガイゲンハンゼル」のエーリヒ・シュメッケンベヒャーに3日間かけて詳細なインタビューをおこない、彼が保存している膨大な過去の資料を提供してもらった。また、以前にもインタビューをしたフォーク歌手のハイン&オス・クレーアー、東方ユダヤ人のイディッシュ語民謡をうたう歌手のガビ・ボリンガーとマンフレート・レムにも重ねてインタビューした。これらを通じて、1970年代・80年代のフォークリバイバル全盛期の東西ドイツのフォークフェスティバルにおける、国内外からの参加歌手の相互の影響について、さらに、ドイツ語圏における東方ユダヤ人民謡の受容の現況について、新たに知見を得ることができた。両ドイツのフォークリバイバル運動に多大な影響を及ぼした東ドイツ民俗学に関しては、フンボルト大学のウーテ・モーアマンに会って、封建制度から資本主義へ移行する19世紀ドイツの農村に関する1960-70年代の研究プロジェクトについてインタビューをおこなった。過去に数回おこなったヘルマン・シュトローバハのインタビュー内容と合わせて、共産主義イデオロギーの枠に縛られながらも、民俗学における古くからの伝統と産業革命以降の変化との関係について、研究者たちがそれぞれの立場を貫いて議論しながら築いてきた東ドイツ民俗学の歴史について論考にまとめた。 連携研究者は、ロマ民族の歴史や今日のヨーロッパの政治状況下での彼らの立場について研究を進めるジプシー学会との連携のもと、オーストリアにおけるロマの伝統音楽についての研究を進めている。 研究協力者は、社会主義国におけるラジオの役割について新たに調査しながら、東ドイツでロックやジャズなどの流行音楽が果たした役割について研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者は2年ぶりの調査旅行を通じて多くの新たな情報を得ると同時に、フォークリバイバル関係者ならびにベルリンの民俗学者と、今後の調査に向けて交流を深めることができた。東ドイツ民俗学についての調査結果をまとめるのと併せて、東西ドイツ各地のフォークフェスティバルとイディッシュ語民謡についての調査・研究も進めている。 連携研究者、研究協力者のふたりも、調査のためのドイツ語圏への出張はできなかったものの、それぞれ文献調査や国内の研究者との情報交換を通じて研究を進め、成果を発表している。 一方で、連携研究者の校務多忙のため、前年度のように科研メンバー間の研究交流はできず、さらに、研究協力者の出産のため、年度後半に予定していたシンポジウムを開催することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は、テュービンゲン・フォークフェスティバルの運営責任者だったエッカルト・ホラーならびに彼から紹介された各地のフェスティバルの主催者とさらに連絡を取りながら、東西ドイツ各地で1980年代まで行われていたフォークフェスティバルと、1990年以降の後継フェスティバルについての調査を進め、「東欧演歌研究会」(ブルガリア、ルーマニアを中心に人気を集めている、民謡をベースにした流行音楽、つまり東欧各国で1970年ー80年代に繰り広げられたフォークリバイバル運動から生まれた流行音楽の研究に携わる会)の出版する論集への寄稿のために、東ドイツのフォーク・フェスティバルについての研究成果を夏までにまとめる。東方ユダヤ人の伝統音楽とイディッシュ語民謡についても英語文献を中心にさらに資料を集め、ドイツにおけるイディッシュ語民謡についての研究成果をまとめる準備もしていく。 連携研究者は、オーストリア・ロマをめぐる人権・社会問題についてジプシー学会をはじめ歴史や社会学の研究者と連携しながら考察し、ロマ民族の伝統音楽とオーストリアにおける彼らのフェスティバルについての研究を進めていく。 研究協力者は東ドイツにおけるラジオの役割についてさらに調査しながら、東ドイツの映画音楽とロックについての研究を進め、ロック音楽についての研究成果は、やはり「東欧演歌研究会」の論集へ寄稿する。 科研の最終年度にあたり、年度の後半には3人の研究者が集まって、さらにポピュラー音楽と英語圏のフォークリバイバル運動の研究者である三井徹の協力を得て、コロキウムあるいはより開かれた形でシンポジウムを開催する。
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次年度使用額が生じた理由 |
連携研究者の校務多忙と研究協力者の出産のため、2015年秋に予定していた研究集会を開催することができず、国内旅費を消化することができなかった。また、2016年度初めに研究代表者が体調を崩して入院したため、研究費を他の目的に振り替えることもできなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究集会の開催と研究相談のため、連携研究者、研究協力者の国内旅費を支出する。追加で必要になった資料の複写料金、資料整理のためのアルバイト代や簡易製本の報告書作成費用に残りの金額を充てる。
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