最終年度に当たる2016年度に、研究代表者の阪井葉子は、東西冷戦下における西ドイツのフォークリバイバル運動の、東ドイツとの予想外に強い結びつきに着目しながら、東ドイツのフォークリバイバル運動の展開とその意義についての研究成果を共著の論文にまとめた。阪井がここ5年繰り返しインタビューをおこなっていた音楽ジャーナリストのヴォルフガング・ライン氏の著書が2016年7月に刊行されたのが、弾みになった。一方、研究プロジェクトの途中から、東西両ドイツのフォークリバイバル運動のなかでの、東方ユダヤ人の言語イディッシュ語による民謡の受容が、重要なテーマとして浮上してきたが、このテーマに関しては、2016年度はおもに東ドイツでのイディッシュ語歌手の活動について、主要な歌手の遺族や本人と新たにコンタクトを取り、メールでの質疑応答やPDFで得られた批評記事等をもとに、調査を進めた。 このため、東ドイツのロックミュージックと政府による文化政策との関係について研究を進めている研究協力者の高岡智子とは、とくに密接に情報交換をおこなった。高岡は2016年に、冷戦末期に催された「平和のためのロック」フェスティバルの意義と、ドイツ再統一後の電子音楽の発展への東ドイツロックの影響について詳しく検証した。 オーストリアにおけるロマ民族のサブ・グループの音楽活動について研究している連携研究者の滝口幸子は、2016年度にはとくにロマたちの自主組織によるフェスティバルについて集めた資料をもとに研究を進めた。 これまでの研究を音楽フェスティバルという観点から集大成するため、2016年11月には「ドイツ語圏の音楽フェスティバル ~フォーク、ロマ・ミュージック、東ドイツロック」と題したシンポジウムを開催した。ポピュラー音楽の専門家である輪島裕介氏を司会に迎え、プロジェクト参加者同士ならびに来聴者との活発な議論がおこなわれた。
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