本研究は、海外で実践される雅楽を、1)日本から行く演奏者による公演、ワークショップ、講義=「渡航型」と、2)現地に滞在する日本人、日系人、その他による実践=「滞在型」の二つに大別し、それぞれの場合における実践を、都市の規模、人種の構成、歴史、文化的背景を考慮しながら、演奏される雅楽の種類、演奏の仕方、担い手、演奏の脈絡など様々な観点から調査、分析するものである。 フィールドワーク作業として、研究3年目の26年度は、2)滞在型の事例のハワイ大学の雅楽アンサンブルの設立経緯を重点的に調査した。その結果、ハワイの雅楽の創設は、ハワイ内部だけで独自に行われたわけではなく、東京の日本雅楽会からの物心両面の援助、ハワイ雅楽会の来日、日本雅楽会の渡布など相互の緊密な交流の中でなされたことがわかった。また、ハワイ雅楽創設者の社本氏はドイツのケルン大学にも赴き、ケルン雅楽アンサンブルの創設者でもある。このような経緯から、ハワイの雅楽、東京の日本雅楽会、ケルン雅楽アンサンブルは、それぞれの土地で雅楽を恒常的に、確実に実践するとともに、いわば姉妹団体として、相互訪問による交流演奏会を催している。つまり、この三カ所では2)滞在型に1)渡航型が組み合わされており、しかも、必ずしも日本を経由しない(ハワイからケルンへ)伝播のルートも出現していると言える。ただし、現在までのところ、指導に当たっているのはいずれも日本で教育を受けた日本人であり、今後、現地出身者の指導者が現れるかどうか、注目される。
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