研究課題/領域番号 |
24520159
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
河添 達也 島根大学, 教育学部, 教授 (20273914)
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キーワード | 作曲法研究 / 日本人作曲家 / 現代音楽 |
研究概要 |
作曲家 湯浅譲二(1929-)と細川俊夫(1955-)の作品および施行を通して、「日本的」と評される作曲作品の構造や性質を読み解き、さらに同時代の西洋人作品との比較分析を行うことで、日本人作曲家作品の持つ独創性を探ろうという試みが、本研究の全体構想である。 平成25年度は湯浅作品の楽曲分析と演奏法研究に加え、細川作品の演奏法研究を行った。湯浅作品の楽曲分析は昨年度に引き続いて「始原への眼差し」シリーズを中心に実施したが、作曲者本人へのインタビューを行って、より詳細な情報とそれまでの研究内容の修正を行うことができた。また同氏の作品に関する演奏法研究では、音響を伴うアルト・サキソフォンのための「私ではなく風が・・・」(1976)を取り上げた。同作品をレパートリーとしているスペシャリスト、安部浩信氏を招へいして部分的に実演しながら、島根大学のサキソフォン専科学生とともに演奏法の詳細な研究を行った。「始原への眼差し」の分析成果は、2014年12月発行の島根大学教育学部研究紀要で公表予定である。 細川作品は、9人の奏者のための「春の庭にて」(2002)を取り上げ、研究者の指揮によって11月30日および1月13日のコンサートで実演した。この演奏は島根大学教育学部の授業科目「合奏A(オーケストラ)」の一環として行われたもので、半年にわたって楽曲分析を行いながら授業を重ねたのち、上述のコンサートにおいて、いずれも解説付きで成果の公表を行った。このコンサートは松江市の主催による一般市民を対象としたもので、合計1700名の聴衆が来場した。 同時代の西洋人作品との比較分析では、比較対象者としているM.ジャレルおよびI.フェデレに強い影響を与えたP.ブーレーズの作品分析を中心に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度の計画では(1)楽譜による研究、(2)湯浅・細川両氏へのインタビューと新作委嘱、(3)湯浅・細川両作品における演奏法研究、(4)西洋同時代作品との比較研究の4点を掲げていた。 そのうち(1)については湯浅作品の「始原への眼差し」および細川作品の「春の庭にて」について研究を行い、特に「始原への眼差し」については直接湯浅氏へインタビューを行って昨年までの研究成果を修正したことから、その成果を2014年12月発行の島根大学教育学部研究紀要に投稿予定であること。 (2)については、上述した通り2013年8月18日~22日にかけて湯浅氏へインタビューを行い、細川氏については自作品について語るコンサート・プレトークによって聞き取り調査を行った(2013年10月4日)こと。湯浅作品の分析については、このインタビューによって、本人の確認に基づいた分析成果を公表できる見込みであること。 (3)では、湯浅作品「私ではなく風が・・・」の演奏法研究を本作品をレパートリーとする演奏者を招へいして行い(4月29日)、細川作品については「春の庭にて」を研究者自身が指揮して演奏した(11月30日および1月13日)。 (4)では、研究対象として予定していたM.ジャレルおよびI.フェデレに加え、この両氏に影響を与えたP.ブーレーズの作品についても詳細な分析を行い、特にその時間概念の差異について考察を行ったこと。 ただ、研究者の日程的な都合によって国外における新作初演に立ち会えなかったことから、当初予定の国外旅費に関しては次年度への繰り越しを行った。なお、次年度は研究の最終年度であることから、本旅費については新作初演の情報収集ではなく、研究者自身の成果発表として計上する予定である。以上の成果を総合し、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)湯浅作品については、これまでの研究成果のうち主に楽曲分析を中心に学術論文としてまとめ、島根大学教育学部研究紀要に投稿し広く公表したい。 (2)細川作品についても、これまでの研究成果を整理して本人へのインタビューを行い、より正確な研究成果をまとめたい。 (3)比較対象とする西洋作品については、研究者の主催する現代音楽セミナー(「秋吉台の夏2014」)のレクチャー・コンサートにおいて積極的に取り上げ、高度な専門的知識を有するセミナー講師や参加者とともに、多角的な実演および分析を実施したい。さらに、西洋音楽の語法を直接的に取り入れた戦後黎明期の日本人作品にも焦点を当てることで、湯浅・細川両氏の独創性について掘り下げたい。 (4)研究の最終年度であることから、これまでの研究を生かして研究者自身が新曲の創作を行い、国内外でその成果を公表するとともに、その質についての評価を仰ぎたい。特に海外で成果発表を行うことは、本研究中心的なテーマである「日本人作曲家の独創的音楽語法」について、外部の目を通した比較批評となりうることから、2014年秋をめどにこれを実現したい。同時に湯浅氏にも新作を委嘱し、研究者自身の新作と同日に初演することで、3年間の研究成果のまとめを公開したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究者の日程の都合により、当初予定していた国外における新作初演に立ち会うことができず、国外旅費を執行できなかったため。また、楽譜作成用タブレット型PCの納期が大幅に遅れ、該当年度内に納入されなかったため。 研究の最終年度となることから、国外における新作初演への立ち会いを研究本人の研究成果発表旅費として構想し、2014年秋に実行する計画を立案している。 成果発表のための楽譜作成用タブレット型PCについては、納期が判明次第、納入する計画である。
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