研究課題/領域番号 |
24520161
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中村 滋延 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (90164300)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 音楽学 / ディジタル・アーカイブ |
研究概要 |
本研究の目的は、福岡を中心に活躍した作曲家の今史朗(コン・シロウ、1904-1977)について、①その創作活動の検証、②作品の分析・評価・記述、③創作資料のデジタルアーカイブ化、④それら資料を音楽文化財として活用する環境の構築、である。平成24年度は、①及び②に関する研究が中心となった。具体的には、まず、創作資料の収集・整理・分析を行った。ここで云う創作資料とは、今自身の作品楽譜・音源、その作品上演の演奏会記録、作品に関わる今自身の、または第三者の手による解説、公表された作品についての評論・批評、新聞雑誌などに掲載された今に関する記事、などである。次に、それらの創作資料に基づいた作品リストを作成した。その際、今の履歴を知ることも必要になるので年譜も作成した。そして、以上を踏まえた上での作曲活動の概要理解を行った。 創作資料の収集については今の知人がボランティアで保管していたものをまとめて入手できた。この資料をもとに作品リストを作成した。作品リストによって欠けた資料が何であるかが明らかになった。作品分析は詳細なものよりもまずは概要理解のための分析が中心になった。その際、資料の劣化に対応するため、楽譜・音源ともにデジタルデータ化し、それをもとに分析を行った。分析結果は簡単な注釈として作品リスト内に記述した。また、作品分析の一環として今史朗の作品上演も実施した。その際には詳細な作品分析を行うことになった。それを報告書等に記載した。 結果、調性音楽→和洋合奏→ジャズ→音列技法→電子音楽→音叢(音群音楽)→不確定性、という今個人の創作史は日本の西洋音楽作曲史にほぼ一致しており、現代音楽のさまざまな作曲技法をすべて、時間的には若干前後するものの、ほぼそれらの出現の時系列に沿うように、今史朗一個人の中で体現していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作品資料の収集に関しては残されていると想定できるものの中の70%を収集した。それを保存するために、楽譜等の紙媒体資料についてはハード・コピー化、PDFファイルとしてのデジタル・コピー化の2つの方法で対応した。音源はオープンリールを再生してデジタル録音しなおし、AIFファイル形式へデジタル化して保存した。デジタル化は資料の活用という点では非常に便利であった。なお、将来的にはデジタル・アーカイブを目指すものであるが、現時点でのデジタル化は楽譜40%、音源30%ほどである。これは予定通りである。 資料の整理のための作品リストを作成した。作曲年の明らかな作品のリスト化は問題なく進んだが、作曲年不詳のものはこれから時間を要する。資料を整理していく過程でいわゆる「機会音楽」(多くはラジオドラマのための音楽)が多量に存在することが分かった。これは予想を超えたことであった。作品分析については、作曲年の明らかな作品については作品概要を明らかにするためにそのほとんどを分析した。詳細な分析は5作品ほどに対して行った。これは予定通りである。他に、分析の結果として完全な「浄書」を行った作品が2作品あった。浄書の結果、上演の可能性が生まれ、すでに2作品を上演し、あと1作品を3ヶ月以内に上演予定である。これは予想外の成果であった。 作品概要が明らかになり、作品リストにそれらを記入することで、今史朗の作風の変遷が明らかになった。作風の変遷を知ることは今史朗の作曲家としての思想を理解する上で重要な鍵になる。 以上の成果を中間報告書としてまとめた。またその内容をHPに上げつつある。当初、中間報告書の作成の予定はなかったが、予想を超える研究の進捗状況で、今史朗の存在を広く知ってもらうために刊行した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は作品資料のさらなる収集を行う。そのためには多くの人を訪ねることが研究調査活動の中心を占める。その際インタビューを行い、それを文字化して、作品リストや年譜の記載の不備を補うようにしたい。特にラジオドラマの音楽などの機会音楽に関してはそのデータ(放送局、放送日、台本演出などのスタッフなど)を積極的に整備するようにしたい。 次いで重要な研究調査活動は個々の作品の詳細な分析である。それに際しては必然的に資料のデジタル化を伴うことになる。分析結果を学会等において発表することは当然であるが、その前段階的な内容を出来るだけ多数の作品について執筆し、「今史朗作品分析集」と題する中間報告書を作成する。 平成26年度はある程度整備された作品リストや作品分析結果と、それをもとにした作品上演による新たな作品音源などを用いて、今史朗に関するシンポジウムを行う。このシンポジウムは作品上演を伴い、作曲家今史朗の学術的及び芸術的価値を知らしめるものになる。このシンポジウムの結果やそこで指摘されるであろう研究上の不備を踏まえて研究のブラッシュアップを行い、将来的に単行本を執筆刊行する。 それ以外に、デジタル化された作品データのアーカイブ化を行う。これも重要な研究目的の一つである。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費でもっとも経費を要するのは資料のデジタル化に要する人件費・謝金である。280,000円ほどを計上している。 中間報告書作成印刷費やHP作成にも費用を要する。150,000円を計上している。 他に調査に要する旅費や学会発表に要する旅費等として150.000円、図書や記録媒体購入の物品費として20,000円を計上している。
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