本研究の目的は、福岡を中心に活躍した作曲家の今史朗(コン・シロウ、1904-1977)について、①創作活動の検証、②作品の分析・評価・記述、③創作資料のデジタルアーカイブ化、④それら資料を音楽文化資源として活用する環境の構築、である。 ①については、まず創作資料の収集・整理を行った。創作資料とは、今史朗自身の作品楽譜・音源、その作品上演の演奏会記録、作品に関する今自身及び第三者の手による解説、公表された作品についての評論・批評、新聞雑誌などに掲載された今史朗に関する記事、などである。創作資料の収集は今史朗の知人が保管していたものをまとめて入手し、それらの創作資料に基づく作品リストを作成することで、創作活動の概要を創作史の視点から明らかにした。 ②については、今史朗自身の創作史が調性音楽→和洋合奏→ジャズ→音列技法→電子音楽→音叢(音群的音楽)→不確定性、という欧米や日本の作曲史にほぼ一致しており、現代音楽のさまざまな作曲技法がすべて今史朗一個人の中で体現されていることがわかった。特徴としてあげられるのが「音叢」という作曲技法上の独自の概念である。音叢はクラスターの相似の概念であるが、鉱物的な音響イメージではなく、柔らかみのある植物的な音響イメージに今史朗の特徴がある。 ③については、楽譜と音源のデジタルアーカイブ化をまず行った。単なる保存のためだけではなく、それを活用するために、例えばステレオ2チャンネル音源だったものを本来のマルチチャンネル再生可能にするための処理なども行った。 ④については、デジタルアーカイブ化したものを音楽文化資源としてすでにいくつかのコンサートにおいて活用している。今後は諸機関との連携によってそれを保管し活用方法を組み立てる。なお、研究期間の最終段階でこの研究テーマによるシンポジウム・コンサートを催し、活用の仕方についての示唆を得た。
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