研究課題/領域番号 |
24520165
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研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
山本 芳美 都留文科大学, 文学部, 教授 (50363883)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イレズミ / タトゥー / 海外移民 / 出稼ぎ / 香港 / シンガポール / 彫師 / 新聞データベース |
研究実績の概要 |
H26年度の研究成果としては、次のものが挙げられる。 今年度は、主にロスアンゼルス、ウィーン、パリ、香港、シンガポールに渡航しておこなった文献調査と世界各地の新聞データベースの検索をおこなった。この作業によって19世紀末から20世紀初頭において香港、シンガポールを拠点として活動した日本人彫師の本名、職業名、スタジオの場所、客や周囲の人々の談話、彫師へのインタビュー記事などを探し当て、活動時期順に年表に整理することができた。 特に、1894年前後から香港で開業し1909年に当地で死去した彫師、野間傳については、出身地や墓所、複数の新聞や書籍に掲載されたスタジオの広告、スタジオの場所と写真、娘の証言などを集めることができた。シンガポールにおいては、国立シンガポール図書館がデジタル公開している新聞データベースから、19世紀末から1930年代にかけて10数人以上の日本人彫師が断続的にシンガポールで発行されていた英字新聞に広告を掲載していることが判明した。少なくとも新聞広告を見る限りでは、シンガポールにおいて、日本人が彫師業を独占していたことが明らかになった。なかには、香港の野間の弟子であることを自称する彫師もいたこともわかった。 今年度の刊行物としては、パリのケブランリ美術館においてH26年5月から開始した展覧会「Tatoueurs,Tatoues」の日本の刺青の歴史について寄稿した図録が出版されている。また、学術監修と解説文を執筆したDVD『南島残照 台湾原住民族のイレズミ』が12月に発売された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画を提出した当初は、研究方法に関して手探り状態であったが、英字新聞データベースが世界各地の図書館・大学等を中心に整備されてきていることが徐々にわかってきた。これらのデータベースを根気強く検索することにより、19世紀から20世紀前半までの世界各地に出稼ぎないし移民した日本人彫師やその客に関する新聞の紹介記事、彫師へのインタビュー記事、広告などを200点近く集めることができた。 これまで、同時期のイギリスを中心に活躍した日本人彫師の資料は、小山騰氏の手によって整理されているが、東南アジアを拠点とした日本人彫師についての研究は手つかずであった。研究からみて、大きな進展といえる。ただし、残念ながら、当時の日本人彫師たちが海外においてどのような図柄、モチーフを彫っていたのかは、資料が見つかっておらず判然としない面がある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は香港にて活躍した彫師の野間傳に関して、野間の出身地である長崎にて地域史を中心にした文献調査をおこないたいと考えている。このほか、より東南アジアにおける彫師の活動を把握するため、8月か9月に香港と台湾で引き続き文献渉猟する予定である。台湾においては、戦前の植民地と東南アジア事情についての情報を集めていた台湾総督府の「南洋調査課」の文献調査をおこなう予定である。また、一般向けの研究成果報告として、これまでの成果を織り込んだ新書の出版を今年度末に向けて準備している。 来年度は研究の最終年度を迎えるが、5年間の研究成果に基づく報告書をまとめ、以降の研究につなげたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度は、通常文献調査に出向く8月から9月にかけて、手術を受けなければならなかったため、予定していた長期調査がおこなえなかった。そのため、使用額に変更が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、収集した英字新聞記事を整理、翻訳し、来年度の報告書執筆に備える予定である。そのため、リサーチアシスタントを頼んで、40記事ほど翻訳をしてもらう。このリサーチアシスタントへの謝金が必要となる。また、長崎、台湾と香港に文献渉猟を行う計画があり、この旅費に用いる予定がある。
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