研究課題/領域番号 |
24520166
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
水野 みか子 名古屋市立大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (50295622)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / フランス |
研究概要 |
平成24年度中に、当該研究「現代音楽における<ひびき>の概念と表現様相」に関して、以下を実施した。 現代音楽における<ひびき>の概念を大きく変えた音楽家のひとりであり、ミュジック・コンクレートの創始者であるピエール・シェフェールの初期活動に焦点をあてて研究を遂行し、ヴィシー政権下でのラジオ放送との関係、ローバー活動や教会での演劇活動、戦前のラジオ技師としての音響機器の哲学等、シェフェールに関してこれまで公表されてこなかった史実を、1920年代の出版物を含む関連資料から考察し、先端芸術創作学会で発表した。 シェフェールの指導力が決定的であった1960年代までの音楽研究グループGRMの未公開資料調査を、パリにおいて2回調査した。この資料の中には、邦人作曲家の作業成果や音楽作品が数点含まれており、その一部の電子音響音楽は未公開作品であり、これに関連して、フランスの研究者との研究交流を4回行い、これらの調査結果の一部を日本音楽学会全国大会で発表した。また、日本でのシェフェール理論受容に関して国際電子音響音楽研究学会で発表した。 テレマティック美学の側面から<ひびき>を考察するため、ネットワーク音楽の実践を行ない、通信環境の整備、遠隔会場での音響ルーティングのシステム設計を行ない、また、インタラクティブ音楽の舞台化を目的としてMAX/mspを含む複合的上演システムを設計し、日本電子音楽協会演奏会において実演し、シンポジウムでの発表を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究「現代音楽における<ひびき>の概念と表現様相」は、申請書の研究目的で示した四つの視点から、現代音楽の<ひびき>を研究するものであり、そのうち三つの視点の研究に関して平成24年度に一定程度進行したと評価できる。 第一に、ピエール・シェフェールの音響オブジェ論について、その思想基盤としてのシェフェール初期活動について重要なフィールド調査結果を得た。すなわち、1920年代出版の書物をフランス古書店から直接入手し、また、シェフェールと実際に活動していたフランス人研究者や音楽家から情報を得ることができ、また、フランスの研究者の協力を得てシェフェールが創始した音楽研究グループGRM の未公開資料にアクセスした、などで調査成果をあげることができた。 第二に、インタラクティブ音楽のシステム設計として、MAX/mspをLiveと連動させて、より速く、より制御しやすい上演形態を構築し、長久手文化の家、丹羽ホール、アサヒアートスクエアといったホールにおいてインタラクティブ電子音響音楽作品を発表した。この新しいインタラクティヴ性により、より自然な室内楽的形態よる電子音響を生み出すことができた。 第三に、東京と名古屋2点、合計3地点を結ぶネットワーク音楽の上演を企画・推進し、三つの地点を結ぶ音響交信と視覚情報の差異について実験結果を得た。 反省点としては、第四の視点である「スペクトル楽派」に関する音楽学的分析について、作品調査は進んでいるもののスコア分析が遅れていることである。
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今後の研究の推進方策 |
「スペクトル楽派」およびPh.マヌリやマルク=A. ダルバヴィをはじめとするポスト・スペクトル世代の作品群について、 スコアへの楽曲分析、IRCAMの音響解析システム(AudioSculpt)による周波数解析、MAX/mspを用いて作曲家たちの作曲理論をオーディオ波形に再現する試みを実施する。平成24年度に行なったシェフェール初期活動の調査結果を活かして、ピエール・シェフェールの主著であるTraité des Objets Musicaux (以下TOM)の第5巻、第6巻の部分訳と解釈を行う。 平成24年度に行なった日仏電子音響音楽交流とデータベース作成について、ポルトガルで開催される国際電子音響音楽研究学会で発表し、さらに平成25年度に遂行する研究も含めて、北京で開催されるアジア電子音響音楽大会にて発表する。 視聴覚インタラクティヴ作品、すなわち、情報マスター側(身体)の視覚像がスレーブとしての音になるときの「ひびき」の認識と、音声がマスターになって映像等の視覚像がスレーブになる際の「ひびき」への集中度とに関して、特別な理念を持つ作品を主な研究対象とする。また、類似形態の電子音響音楽作品を作曲し、あいちトリエンナーレにて発表する。ネットワーク音楽について、特にipv6を想定したJackTripでの高速音響通信によって作品上演を実施している作品における時空間美学を考察する。今年度の通信相手として、台湾、韓国、国内では東京、を想定して実験を繰り返す。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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