研究課題/領域番号 |
24520167
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
藤田 隆則 京都市立芸術大学, 公私立大学の部局等, 教授 (20209050)
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キーワード | 謡本 / 節 / 旋律 / 胡麻点 |
研究概要 |
平成25年度に予定していた(1)謡本の比較作業、(2)謡われる現場の調査、(3)節の解説書蒐集と読解、という3つのテーマのうち、実際に行うことができたのは、(2)と(3)であった。(2)については、静岡県の民俗芸能である西浦田楽のフィールド調査を行った。従来行っていた舞踊の技法伝承にかんする研究に加え、本年度は、伝承される多彩な歌謡に光をあて、その歌詞を蒐集し、バリエーションをさぐった。さらに練習が行われる場面を記録し、バリエーションが発生する理由を考察した。西浦田楽の歌謡のテクストには、さまざまな意味不明の言葉がみられるが、そのいくつかは、メリスマによって歌の声を引き延ばすことと関係していることがわかり、世阿弥が自身の伝書の中でいう「節訛り」が、現代にも生きていることが確認できた。(3)に関しては、江戸中期に書かれた謡伝書「そなえはた」の序文の読解(一部分については現代語訳)を行った。「そなえはた」は、江戸中期の能役者、岩井直恒の口授を記した謡の技法書であるが、その中には、胡麻点の向きが、実際の旋律の上下の動きを担わされていることを示す記事が見られた。江戸中期の観世流では、現代と同様、胡麻点の向きの変化を無視し、補助記号のみをたよりにして謡をうたうことが習慣化していたとも思われるが、中には、胡麻の向きなど、謡本に古くからある記号を形骸化させることなく、より少ない数の記号を使って、謡の規範化をはかろうする意欲に満ちた役者も存在していたことが、明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
胡麻点が担っている情報は非常にすくない。平胡麻であれば、音が同じ高さで連続すること、下胡麻であれば下がることを意味する。ただし、(1)下がるといってもどの程度さがるのか(音程)、また、(2)下がったあと、音はその高さにとどまるのか、それともすぐにもとの高さにもどるのか。この2つをめぐって解釈は様々に行われることになり、旋律は必ずしも一義的には決まらない。このことから、胡麻点がもっている情報は非常に曖昧であるとする考え方が、現在のところ主流である。しかし、その曖昧さは許される範囲の曖昧さであり、謡のバリエーションであるということを述べるために、同じ胡麻点のならびが旋律化される仕方のバリエーションを実際に考えなければならない。そのために、さらなる資料研究と民俗調査が必要になる。
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今後の研究の推進方策 |
新しい課題として、謡の規範譜の試みの歴史をさぐりたい。謡は江戸時代、家元制度の中で、強い師弟関係の中で伝授されてきた。その中では、楽譜よりも師匠の方に権威があり、その点からは、楽譜は常に不完全であり、不十分なものであるというまなざしの中におかれている。にもかかわらず、規範譜としての要素がゼロというわけではない。謡の規範譜を生み出そうとした試みの歴史をたどって、その中で、胡麻点の重要度をはかる作業を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本務校に於ける研究以外の業務が多発したために、十分に計画的な使用をおこなうことができなかった。 前年度に予定していた海外での学会発表などに利用したい。
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