研究課題/領域番号 |
24520177
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 桐朋学園大学 |
研究代表者 |
平間 充子(平間充子) 桐朋学園大学, 音楽学部, その他 (90600495)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 雅楽寮 / 左右近衛府 / 平安時代 / 日本古代史 / 饗宴儀礼 / 旬儀 |
研究概要 |
1.「元日節会」「二宮大饗」「大臣大饗」「御斎会(みさいえ)」「定考(こうじょう)・列見(れけん)」と雅楽寮の奏楽に関する研究 前三者は、天皇、中宮・東宮、左右大臣、といった朝廷の頂点にある人物がそれぞれ年頭に主催する饗宴儀礼、また御斎会は朝廷が関与する仏事として最も大規模かつ公的な法会、定考・列見は太政官に勤務する官人の昇進手続きとしての政務儀礼である。これらは全て律令的秩序に基づく儀礼であり、雅楽寮のみが奏楽を行う、といった2つの共通点を持つ。一方、左右大臣の私邸で開催される大臣大饗以外は全て内裏で行われているが、そこには天皇も臨席しないため、この場合は、雅楽寮が「派遣」されたことを意味する。左右大臣がそれぞれの私邸で年頭に行っていた「臨時客」という饗宴儀礼、および「御斎会に准ず」との決定を天皇から受け、雅楽寮が派遣された大内裏以外の場所で行われた儀礼と、上記の儀礼とを比較し、「律令的秩序に基づく儀礼を司る律令的機関としての雅楽寮の奏楽」が、さらに天皇の徳を垂らしめるため、移動と設置・解除が可能な装置として積極的に機能していた可能性を指摘。25年7月、雑誌『音楽学』へ投稿予定。 2.旬儀における近衛府の奏楽と中国の定期入朝制の比較 旬儀とは、毎月1・11・16・21の各日に、天皇が紫宸殿に出御して政務を視、参集した臣下たちとその後饗宴を行う宮廷行事を指す。そこでは近衛府が奏楽を行う習わしである一方、その淵源とされた中国の所謂定期入朝制では、饗宴や奏楽は行われない。何故中国の定期入朝制には存在しなかった奏楽が日本の旬儀では行われたのか、更に何故旬儀では近衛府が奏楽を担当しなければならなかったのかを考察し、近衛府による奏楽が当時の日本・中国それぞれの宮廷における君臣関係の差異を反映している可能性について検証。第10回日中比較音楽国際研究学術会議(3月、東京)にて研究発表。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年9月開催予定であった第10回日中比較音楽国際研究学術会議が3月に繰り上げて東京で開催されたため、25年度分の研究として計画していた「2.旬儀における近衛府の奏楽と中国の定期入朝制の比較」の検証を前倒しで進め、発表することができた。会議では、他の参加者との意見交換を行い、儀礼のあり方や記録の性格、とりわけ儀礼の実態の時間的な変遷と近衛府・雅楽寮の位置づけなどに関し、論文として投稿する際に極めて有用なヒントを得ることができた。 その一方、前述の会議の繰り上がり開催とそこで発表する研究への時間を捻出するためICTM東アジア音楽研究シンポジウムへの参加を見送った。加えて、1年ほど前から発表が決定していた東アジア比較文化国際研究会議の開催が無期延期となり、その結果「1.『元日節会』『二宮大饗(にぐうのだいきょう)』『大臣大饗』『御斎会(みさいえ)』『定考(こうじょう)・列見(れけん)』と雅楽寮の奏楽に関する研究」に関しての検証と考察が思うように進まず、論文投稿の時期が25年度にずれ込んでしまった。後者学会の無期延期は、会議の2か月前に突然決定・通達され(日中関係の複雑化が原因か)、未だ開催の目途が立っておらず、大変残念である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き史料の読解および先行研究など資料収集とその整理を続行し、学会発表と論文投稿を行う。また、雅楽、音楽学、中国古代史、日本古代史などに関する専門的な知識も必要に応じ積極的に収集する。主な研究内容は以下の通り。 1.行幸・宴と在地芸能(大化前代~8世紀)の研究・・・行幸や宴では「訪れた場所に伝えられる芸能」または「天皇を迎えた側のみによる芸能」が行われる、という原則を指摘。更に、行幸が持っていた政治的な機能とその変遷に鑑み、行幸や宴における芸能の重要性とともに、芸能を「視て聴く」という行為が帯びる社会的な意義について考察する。 2.奉献的儀礼と左右近衛府の奏楽に関する研究・・・24年度の「1.『元日節会』『二宮大饗(にぐうのだいきょう)』『大臣大饗』『御斎会(みさいえ)』『定考(こうじょう)・列見(れけん)』と雅楽寮の奏楽に関する研究」を補完し、なおかつ「2.旬儀における近衛府の奏楽と中国の定期入朝制の比較」の研究を敷衍するものとして、近衛府の芸能と音楽の奉仕に関する検証を行い、律令に規定されず、奉献を通じて構築・確認される君臣関係を表象するものとして機能していたことを指摘する。 3.葬送儀礼の芸能研究(大化前代~8世紀)・・・天皇の葬礼の場である殯庭での芸能奏上を取り上げ、当時の政治的状況、とりわけ律令政治の進展過程を反映し、中国風の儀礼と日本古来の慣習との整合が試みられていたことを指摘し、またそれらを「奏上させる」ことの政治的・社会的意義について考察する。 4.大嘗祭の芸能研究―服属儀礼として、王権就任儀礼として―・・・大嘗祭で行われた様々な芸能のうち、対になって奏される久米舞・吉志舞、および国栖奏・隼人舞は、農耕を行わない山海の人々の芸能であったことを指摘し、大嘗祭で行われる芸能を「視て聴く」ことが天皇の即位に果たしていた重要性について検証する。 5.上記の結果をウェブで公開
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費(海外)・・・海外の学会で個人研究発表を2回予定。うち第42回ICTM世界大会(上海、7月)は決定、ポーランド日本学会主催国際学会「日本の文明:表象と現象」(クラコフ、11月)に発表予定の「3.葬送儀礼の芸能研究(大化前代~8世紀)」は査読中。航空券およびそれに付随する費用、現地交通費・宿泊費。 旅費(国内)・・・学会での個人研究発表が1回決定(京都、9月)。自宅から京都までの交通費および京都での宿泊費。その他複数の専門家と面談し専門的な知識を得るため、主として申請者の自宅(宇都宮)から東京都内への交通費、および安価な宿舎への宿泊費。 謝金・・・学会発表と論文投稿に伴う英文校正料、および専門的知識の伝授、資料の収集補助とその整理。 物品費・・・音楽学および日本古代史関係の書籍、文房具、PC消耗品。 その他・・・学会参加費、論文投稿費、抜き刷り印刷費、複写費(史料、および先行研究の雑誌投稿論文など)、通信費。
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