研究課題/領域番号 |
24520177
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研究機関 | 桐朋学園大学 |
研究代表者 |
平間 充子 (平間 充子) 桐朋学園大学, 音楽学部, その他 (90600495)
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キーワード | 日本音楽史 / 日本芸能史 / 行幸 / 葬送儀礼 / 楯節舞 |
研究概要 |
以下の2点について資料収集・事例分析を行い、先行研究を批判的に継承して結果をまとめ、学会発表と 2.に関しては更に和文と英文の論文投稿を行った。 1.行幸と在地芸能(大化前代~8世紀)の研究・・・『日本書紀』および『続日本紀』から史実を記すと思われる行幸での芸能の記事16件を分析すると、行幸では「訪れた場所に伝えられる芸能」が「天皇を迎えた側の、在地の人々」によって行われる、という原則がある。先行研究によれば、行幸とは単なる天皇やオオキミの物見遊山ではなく、在地有力者が持つ政治的特権を新たな支配者に譲渡・確認する極めて政治性の高い機会であること、そこでは「その土地で収穫されたものを、支配者の身体に取り込むこと」が土地の霊力を身に着けるために必須の儀礼的行為とされていたことが指摘されている。したがって、行幸で天皇が在地の芸能を「視て聴く」という行為は、土地の霊力を身体に取り込み、新たな支配者としての資格を得る社会的な意義があると考えられ、本来は娯楽的なものではなかったことが指摘できる。 2.葬送儀礼の芸能研究(大化前代~8世紀)・・・中国の正史の記述から、日本にはいわゆる複次葬の習慣があり、第1次葬の段階で芸能が行われていた可能性が指摘できる。『日本書紀』に見える天皇の葬送儀礼にもそれが窺われるが、允恭天皇の葬送儀礼には、調として新羅から派遣された楽人が歩きながら演奏する、といった当時の外交関係と大陸独特の風習が見うけられる。また、7世紀末に天武天皇の葬送儀礼で行われた様々な芸能には、「殯庭」といった政治的な場で、大和朝廷が氏族ごとに支配を進め、更には大陸から律令政治を取り入れた過程を反映していること、また日本古来の慣習と中国から導入された制度との整合が試みられていたことが指摘でき、この記事を最後に一次葬における芸能が見られなくなるのも、中国の礼制にしたがった結果と判断できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた「奉献的儀礼と左右近衛府の奏楽に関する研究」の事例収集と分析に時間がかかり、論文投稿にまで結び付けられなかった。 一方、「1.行幸・宴と在地芸能(大化前代~8世紀)の研究」および「2.葬送儀礼の芸能研究(大化前代~8世紀)」に係る国際学会発表はそれぞれ2度行うことができた。前者に関しては、初めて日本学の分野での学会に参加し、今までの研究領域を超えた幅広い分野から意見交換ができた。この経験は、成果を論文として纏める際に大変有効であると思われる。また、後者に関しては当初予定していなかった英文での論文出版が決定し、より効果的な成果発表ができた。
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今後の研究の推進方策 |
史料の読解および先行研究など資料収集とその整理を継続し、学会発表と論文投稿を行う。また、雅楽、音楽学、中国古代史、日本古代史などに関する専門的な知識も必要に応じ積極的に収集する。主な研究内容は以下の通り。 1.奉献的儀礼と左右近衛府の奏楽に関する研究・・・24年度の「1.『元日節会』『二宮大饗(にぐうのだいきょう)』『大臣大饗』『御斎会(みさいえ)』『定考(こうじょう)・列見(れけん)』と雅楽寮の奏楽に関する研究」を補完し、なおかつ「2.旬儀に おける近衛府の奏楽と中国の定期入朝制の比較」の研究を敷衍するものとして、近衛府の芸能と音楽の奉仕に関する検証を行い、律令に規定されず、奉献を通じて構築・確認される君臣関係を表象するものとして機能していたことを指摘する。 2.儀礼における芸能の実態と政治的意義に関する日中比較研究・煬帝の百戯と日本の踏歌節会について・・・7世紀初頭、煬帝が洛陽などで行った百戯と、それが日本に導入され独自に変容・定着した踏歌節会とを比較し、誰によってどのような芸能が行われたのかについての差異を指摘し、更にその共通点と相違点が、日中の政治的状況や、日本における大陸制度の導入課程を反映している可能性について考察する。 3.大嘗祭の芸能研究―服属儀礼として、王権就任儀礼として―・・・大嘗祭で行われた様々な芸能のうち、対になって奏される久米舞・吉志舞、および国栖奏・隼人舞は、農耕を行わない山海の人々の芸能であったことを指摘し、芸能を「行う」ことの意義と同時に「視て聴く」ことが天皇の即位に果たしていた重要性について検証する。 4.上記の結果をウェブで公開
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次年度の研究費の使用計画 |
国際学会で4回の研究発表を行う予定で、4回分の海外旅行費用を計上していたが、そのうちの1回は日本国内開催だったため費用が少なくて済んだ。その上、2回はヨーロッパで日程・場所共に近かったため、1度の旅行で済んでしまった。 国際学会での研究発表のための海外旅費。または、資料収集のための国内旅費か物品購入に充てる。
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