研究課題/領域番号 |
24520179
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
吉村 浩一 法政大学, 文学部, 教授 (70135490)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | アート鑑賞 / 鑑賞教育 / 顕在的属性 / 潜在的属性 / 展示解説文 / 博物館と美術館の比較 |
研究概要 |
本研究は、同じミュージアムと言っても、美術館での展示解説の方針や解説文の作成は、科学館や歴史館などの博物館でのやり方を踏襲するだけでは不十分であることを明らかにし、美術鑑賞や鑑賞教育という感性の働きを基本とする開発が必要でその具体的内容を提案することを目指している。特に、美術作品のもつ顕在的属性(表面的に知覚できる作品の特徴)と潜在的属性(作品から受ける印象や生じる感情)を分けて捉えることの必要性を基本に据えるため、その理論的検討を「絵画に顕在するものを展示解説に生かす意義」と題する論文で行った。 実証的データの収集は、4種類の方向で進めている。(1)実在する絵画展示解説文を材料に、顕在的属性と潜在的属性の見極めがどの程度可能かの検討。(2)美術館の展示専門家へのアンケート調査:展示解説にあたって重要と思われる12項目を設定し、それぞれの項目に対し博物館と美術館のどちらが重視するかの相対的評定を求める。(3)美術館または博物館の展示専門家にインタビューを行い、展示現場での問題点や今後の可能性に関する知見を広く収集する。(4)一般の人たちの鑑賞文において、顕在的属性と潜在的属性がどのような現れ方をするかを吟味する。 これら4つの方向性に対し、現時点での達成は、(1)は、「絵画に顕在するものを展示解説に生かす」と題する論文で発表した。(2)は、「展示解説に対する美術館と博物館の意識差:展示専門家へのアンケート調査から」と題して、展示学会において口頭発表した。(3)は、現在9名の専門に対してインタビューを行い、今後も継続予定である。(4)は、専門家でない人たちから作品に対する自然な鑑賞文を収集するには工夫がいると考え、短大茶道部のお茶会での茶碗鑑賞を利用してデータ収集を行うこにとした。その理論的枠組みを、「UXデザインから捉える美術館の展示解説(1)」と題する論文で構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画・方法として掲げた2枚の絵画(人物画と風景画)の展示解説文を用いた顕在的属性と潜在的属性の明確さの検討、すなわち解説文に書かれている個々の記述が顕在的属性を表しているか潜在的属性を表しているかを一般の学生がどれほどの一致度で分類できるかの実証データを得る作業は達成できた。 同じく研究計画・方法に掲げた、顕在的属性と潜在的属性を分けて捉えることを絵画の専門家と一般学生とで比較するという検討課題は、視点を広げて、上記「研究実績の概要」で示した(1)を除き(2)から(4)の3方向からデータ収集する方針に変え、作業を進めた。すなわち、展示の専門家がはたして博物館と美術館の展示解説に違いを認めているかについてのアンケート調査、展示専門家からより広い視点から見解を求めるインタビュー、一般の人たちに対する鑑賞文を利用した顕在的属性と潜在的属性の現れ方の検討の3つである。この変更は、展示解説について、顕在的属性と潜在的属性の比較という観点に留まらず、展示解説現場での実態を反映する有益な情報を広く捉えることを可能にし、本研究の成果を博物館や美術館現場での展示解説に生かすことにより多面的に貢献することになると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度にすでに開始している展示の専門家に対するアンケート調査を継続する。現時点では博物館側の専門家の意見と美術館側の専門家の意見を比較するに足る協力者数を達成できていないため、量的比較ができる程度まで、サンプルの大きさを増す作業を進める。 専門家からのインタビューについても、博物館や美術館の展示、あるいは展示解説に関わる専門家は多岐にわたるため、現時点では十分な収集ができているとは言えない。全国さまざまな立場の専門家に対し、より多角的にインタビューを行い、得られたデータをテーマごとにコード化して検索可能なデータベースにすることを目指す。 一般の学生が顕在的属性と潜在的属性を同定する性状についても、現時点ではお茶会での茶碗鑑賞データしか得られておらず、異なる鑑賞場面を利用して現実感ある鑑賞の発話あるいは文章データの収集を続ける。特に、美術科の学生と一般学生の鑑賞に用いる言葉や視点の違いについての検討を加える。 今後は新たに、鑑賞教育の視点を加え、中学校及び美術館の鑑賞教育担当者の協力を得て、鑑賞内容を言語表現する際の語彙や視点を捉える実証的研究を開始する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
インタビューに関わる出張旅費及び謝礼、収集した音声データの転記及びデータベース作成作業に関わる業務への謝金、特に使用するコンピュータの機能拡充費を支出する。 美術科の学生と一般学生との比較研究に関して、調査先の大分県立芸術文化短期大学の2名の研究協力者との研究打ち合わせ、研究実施のための出張旅費を支出する。 個性的な展示及び展示解説を行っている美術館・博物館を視察するための旅費を支出する。
|