美術館と科学系博物館の展示および展示解説の専門家14名に対して行ったインタビューデータを次の12テーマに整理し、論文にまとめる作業を行った。12のテーマは、(1)美術館・博物館の概念、(2)展示物と展示空間の制作、(3)企画展と常設展、(4)学芸員やコミュニケーター、(5)来館者の見学態度と満足感、(6)感性、(7)音声ガイドなどの解説装置、(8)解説方法、(9)解説姿勢、(10)解説文とその属性、(11)鑑賞教育、(12)現代アートである。インタビュー中に発せられた300を超えるコメントを整理するに当たり、MAXQDAとインスピレーションというソフトの機能を使って進めた。 分析の結果、最も顕著だったことは、美術館側の専門家は過剰な展示解説になることを警戒するのに対し、科学系博物館側の専門家は美術館の展示物にはもっと解説があってよいと考えている。そのような対照的意見は、現代アートに対して象徴的に現れた。科学系博物館関係者は現代アートにこそより豊かな解説をつけてほしいと考えているのに対し、美術館関係者は同時代人の作家の作品であるゆえ時代背景の説明すら不必要で、現代アートこそ同じ時代を生きる1鑑賞者としての感性をもって受けとめるためにも解説はない方がよいと考えている。 こうした対照性は、美術館と科学系博物館の展示に関し、それぞれの関係者が抱いている長所と問題点をすりあわせ、お互い同士、自らの側の展示解説をより優れたものに精錬していく材料にすることが期待できる。 また、自らが作成する心理学の古典的実験機器のデータベースをより魅力的なウェブミュージアムとして展開するため、上記インタビューから得られたヒントを機器解説に盛り込む形で活用した。具体的には、古典的実験機器という一般の人にはなじみの少ない展示物に興味をもってもらうための記事をインターフェイス解説として挿入した。
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