本年度は、本研究課題の成果をより広く発信するために、『浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代』(森話社、2017年2月)を出版した。これは本研究課題においてこれまで2回開催した公開シンポジウムの成果を部分的に盛り込んだ共著である。2013年度に開催した公開シンポジウム「舞踊家・小森敏(1887-1951)を知る」では、我が国のモダンダンスのパイオニアの多くが、帝国劇場歌劇部という非・舞踊家養成機関においてバレエ指導を受けていたことが再確認されたが、本書ではその指導者であったG.V.ローシーの研究者が新たな事実と知見が、浅草オペラの源流として掲載されている。また2014年度に開催した公開シンポジウム「近代芸能としてみた浅草オペラの音楽・舞踊・演劇」では、従来は西洋のオペラ受容と見做されがちであった浅草オペラは、近代という時期における特定の地域を主とした芸能として、広く見直さなければならないことが確認された。こうした確認、また浅草オペラを研究対象に据えた研究者が個々に成果を示しつつある現状を受け、本書では提供者と受容者という立場、上演作品(オペラと舞踊)と訳詞という構成要素など、多様な視点から、それぞれの視点に立つ研究者が論じている。それゆえ浅草オペラを様々な角度から見つめることを可能とする一方、これを「浅草オペラ研究」として括るまでにはいたらなかったが、それは今後の課題としたい。 あわせて研究代表者の杉山が、帝国劇場歌劇部で指導されたバレエのその後について、比較舞踊学会第27回大会(2016年11月、於・沖縄県立芸術大学)にて研究発表を行った。なおこの内容については新たな資料を付加して投稿準備中である。
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