研究課題/領域番号 |
24520186
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
丸本 隆 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (60030186)
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キーワード | ヴェルディ / オペラ / オペラ受容史 / ドイツ / イタリア |
研究概要 |
前年度に引き続き、まず本研究の基礎となる資料収集とその解読、データベース化の作業に注力した。本研究年度はおりしもヴェルディ生誕200年にあたり、それにちなんでさまざまな研究書や研究論文が刊行されるという有利な条件のなかで、夏期のイタリア、ドイツへの出張時における作業を中心に、多くの資料を入手することができた。 本年度は特に、それら新規のものを含め、これまで収集してきたヴェルディ・オペラに関する英語・ドイツ語・イタリア語で書かれた学術論文の解読を集中的に行い、各論文における特筆すべき箇所など、重要なデータを作品別・テーマ別に整理・分類したデータベースの構築を大いに進展させた。 その結果、それらを活用しアウトプットできる体制がかなり整い、そうした基盤を踏まえてヴェルディ受容とヴェルディ研究をめぐるテーマを扱った二つの口頭発表を行った。そのひとつは、本研究者が主宰する早稲田大学オペラ/音楽劇研究所の公開研究会におけるもので、発表原稿の作成過程だけでなく、発表後の長時間におよぶ活発な質疑応答やデスカッションを通じて、本研究課題の考察をさらに一歩、深めることができた。 もうひとつは、2013年6月に開催された演劇学会全国大会において、「宝塚歌劇と世界の音楽劇」と銘打ったその全体テーマとの関連で依頼された総括講演で、オペラ/音楽劇研究の方法論をめぐる一例としてヴェルディ・オペラをとりあげたものである。 さらにその講演原稿をもとに「ヴェルディとリソルジメント・オペラ ―オペラ研究の(不)可能性をめぐって」と題する論文を執筆し、同学会紀要『演劇学論集』に寄稿した。これらの仕事によって、最終年度である2014年度に計画している本課題研究の総集的な成果発表を実現するための道筋をつけることができたことは、本研究年度の大きな成果であろうと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の開始にあたって計画したのはまず、各種資料の収集であった。音楽・演劇・文学等を融合した総合芸術であるオペラの研究は、多様な領域にわたる考察を必要とし、そのためにはそれに応じたさまざまな文献類、基礎資料としてのリブレットと楽譜、さらには映像資料(上演を記録したDVDなど)を揃えなければならない。さらにヴェルディ・オペラの考察のためには、リブレットのオリジナル言語としてのイタリア語、それに加えて研究書を紐解くうえで不可欠な英語とドイツ語の能力も要求される。その意味でも収集の対象となる文献は多岐にわたり、収集した文献をそれらの言語を駆使して読み進めていくことが、研究の前提条件となる。この分野の研究者層が日本では驚くほど薄いのも、総合芸術へのアプローチの困難さとともに、そうした語学的なハードルに起因するといえる。 資料については、数度の海外出張時の作業も含めてさまざまな方法による収集を試み、本研究課題を遂行する上で必要な文献・映像資料はかなり順調に入手することができた。問題はそれらの資料を順次解読・分析しデータベース化し、アウトプットの基礎を固めることである。そのために必要な外国語と方法論に関しては、英語・ドイツ語による文献解読、パフォーミングアーツ的側面からの考察はそれほど問題なく進展しているが、イタリア語を駆使しての研究書の解読、音楽面における高度な分析といった点については、本研究者がこれまでそれらの分野と専門的に取り組んでこなかったこともあり、やや遅れをとっている。この点については、最終年度における集中的な努力によって挽回したい。 本研究の中間的な成果発表に関しては、両年度とも口頭発表あるいは学術論文の寄稿という形で行っており、それらをどうまとめていくかという問題があるものの、本研究の最終的な成果へとつなげていくための基盤はそれなりに形成されつつあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究もいよいよ最終年度を迎えることとなり、それ相応の形をとった研究成果発表を視野に入れた推進方策に取り組みたい。まず必要な資料が若干不足している現状を鑑み、最終年度の早い時期にその収集に尽力したい。特に雑誌論文に関しては完全に集めきれたとは言えない状況にあり、その収集方法を再考する必要があろう。夏期休暇中に再度海外の図書館を訪れることが効果的と思われるが、一方、集中的な時間がとれる夏期休暇を成果発表(論文執筆)の時間に当てることが必要となるかもしれず、その場合は日本にいながら収集作業を進めたい。 収集したそれらの文献の解読とデータベース化はこれまで一貫して進めてきたが、これからは特に最終段階として、論文執筆にあたって効果的な活用が可能になるようレベルの高い整理を試みたい。本研究に必要でありながら依然としてやや不十分な状態にあるイタリア語能力をさらに強化して未読の文献解読のテンポを速め、また音楽学的方法論の素養を深めてオペラという総合芸術的要素の強い媒体により効果的にアプローチできるよう試みることも、今後の大きな課題である。 執筆した論考は寄稿論文または研究書の形で公表したいと考えている。本研究は中心テーマをドイツにおけるヴェルディ・オペラ受容の歴史的変遷とその意味の考察に置いているが、その執筆内容に関しては、ヴェルディが存命しオペラを発表した19世紀におけるドイツでの受容にテーマを絞り深い考察を試みるのか、あるいはそうした現象をよりどころにより広範なヴェルディ・オペラ論を展開するのか、まだ決めかねているが、夏期休暇までにはより具体的かつ詳細な研究計画を打ちだすつもりである。
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