研究課題/領域番号 |
24520187
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 洗足学園音楽大学 |
研究代表者 |
大類 朋美 洗足学園音楽大学, 音楽学部, 講師 (80587999)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ティーチング・アーティスト / アートエデュケーション / インターアクティブ・パフォーマンス / アウトリーチ / コミュニティー / アントレプルヌール / ソーシャルサービス / レジデンシー活動 |
研究概要 |
川崎市立の小学校6校にて17公演のアウトリーチ・コンサート及びワークショップを実施した。平成24年度、小学校のプログラムにて新たに用いた手法を以下に2点挙げる。一つ目は、演奏者が音楽にお話と絵を付け、紙芝居をみせるようにして、音楽を聴けるようにしたことである。二つ目は、子供達が馴染んでいる童謡を、コンサートで演奏する作曲家のスタイルに編曲したり、童謡のメロディーを着せ替え人形のように怒ったり、悲しんだりといった様々な感情表現に変化させて聴かせたことである。 これらの経験から、演奏家が、伝えたい音楽のコアの部分を伝達するために、 従来のコンサートでは使わない技能(編曲・絵を描く)を駆使する必要性を実感した。 演奏者の実生活に基づいたお話や絵の創作、また童謡が全く違う形に変化していく作曲という創作活動に触れた子供達から、自分達も自分の生活を題材にした曲をつくりたいという要望が出たことは、今後の活動の方向性を示す有益なフィードバックとなった。 二度のニューヨークへの出張では、本研究者が行なっている活動に類似する取組みを、組織的に大きく展開している事例に関する詳細な知見を得た。我が国ではまだ発展途上のアートマネジメント担当者やキャリアデヴェロップメント事務職者の考え方に触れることができ、またコミュニティーで活動する演奏家の養成教育の充実ぶりを視察することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度、何よりも大きかった収穫は研究活動領域におけるネットワークの拡大にある。それによる成果を4つ挙げる。 1)インターアクティブ・パフォーマンスの理念に通じた新たな共演者を得ることができたことによって、コンサートを聴く子供達の芸術体験がより多彩になった。 2)出張先でのネットワーキングにより、アート・エデュケーションの先導者を、本研究者の所属する大学と連携して日本学術振興会による短期外国人招聘研究者として招聘する計画を立案することになった。 3)問題意識を共有する音楽家やキャリアサービスのネットワークづくりが始まっており、6月にその集まり(キャリアスタッフ会議:久保田慶一主催)において活動報告をする予定である。 4)研究テーマと関連する本2冊(共著、出版予定)の執筆を進めている。1. 英語でレッスン(スタイルノート出版) 2. Eric Booth The Music Teaching Artist’s Bible 和訳(水曜社) 平成25年度の種を撒くステージから、 今後は 次のステージへと展開し、ネットワークから得た新たな活動領域での実践と、その成果の外への発信を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までのアウトリーチ訪問先は、小学校がメインとなっていたが、その活動実績を基に今年度は、音楽が持つソーシャル・サービス(社会貢献)的な側面の力を発揮できるように、その分野においての開拓に努めたい。現時点においては、障害者施設、養護学校や高齢者施設訪問を検討している。 今までは、小学校という限られた枠内の受益者を対象にしたコンサート形態だったが、平成25年度は、上記の主旨に基づいて、広く一般人が聴けるように、外のホールでのコンサートを企画したい。 今後は、さらに活動実践を積み、このような活動が音楽家の新たなキャリアの選択肢となるような先導的な取組みをして、新たなキャリアモデルを、共演者と共に開発し実践していきたい。そして、それを以って大学側へのカリキュラム導入の提案をしたい。 また、これらの取組みについては、対外的に活動報告をしたり、ウェブで活動内容を発信していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、1)先導的なコミュニティー・エンゲージメントとしての音楽アウトリーチ活動の研究調査と2)本研究者による演奏実践的なケーススタディーという二面性が特徴である。それぞれの面における支出内容の概略を挙げる。 1)創作やリーダーシップといった資質を育成するコミュニティー活動の先導的養成機関として、ヨーロッパのイギリスのギルドホール音楽院やオランダの王立クラウス音楽院(Prince Claus Conservatoire)がある。それらの大学が提携して活動している大学院のプログラム(Joint Music Master for New Audiences and Innovative Practice)の活動現場を視察することにおいて、出張経費や、情報提供者への謝礼、コンサートやワークショップ参加費を見積もっている。 2)研究実践の場として小学校の他、地方(島根県)での障害者対象のコンサートや、養護学校や高齢者施設を計画している。実施のための、必要経費(交通費・宿泊費)や演奏者や指導者、作曲や編曲協力者、研究補助者への報酬を予定している。 新たに、研究成果を社会へ発信していくための、メディア環境整備に必要な経費や、学会参加費用も算出している。
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