研究課題/領域番号 |
24520194
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪樟蔭女子大学 |
研究代表者 |
伊豆原 月絵 大阪樟蔭女子大学, 学芸学部, 教授 (40440036)
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研究分担者 |
片岡 淳 琉球大学, 教育学部, 教授 (30204415)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ロココ / 蚕遺伝資源 / 宮廷衣裳 / 復元的研究 / 美学 / 美意識 / 染織 / 養蚕 |
研究概要 |
本研究は、18世紀のロココ時代のフランス宮廷衣裳の美意識を明らかにすることであり、方法として、往時の欧州の蚕種を調査研究し、遺伝資源として保存されているその蚕種を選び飼育し、往時の製糸、製織などの素材とその技法に踏襲したドレス制作の復元的研究を試みている。 研究代表者の伊豆原月絵は、1.平成24年4月から5月にかけて、神戸ファッション美術館のドレスの織物をマイクロスコープで撮影した。2.平成24年5月には、欧州の蚕種についての文献調査から蚕種を想定した。3.平成24年6月には、蚕業技術研究所の協力を得て、蚕遺伝資源として保存されているフランス在来品種を調査した。その結果、明治末、大正、昭和初期にフランスから輸入された蚕遺伝資源の在来品種は、5種類であることが判明した。 4.蚕業技術研究所の指導を仰ぎ蚕種を検討した結果、ピンク色の繭を作る「ローザ」と白い繭を作る「セヴェンヌ白」の2種類の蚕種を候補にし、3万粒の飼育を計画した。蚕糸科学研究所の検査結果から、「ローザ」の繭から繰糸するには、技術を要し、採取可能な糸が少ないことが予想され最終的には、往時に最も多く用いられていた「セヴェンヌ白」を飼育することとした。 5.平成24年7月2日の初秋蚕期から蚕品種「セヴェンヌ白」の蚕種卵の製造を蚕業技術研究所に於いて開始した。6.平成24年9月の晩秋蚕期に蚕業技術研究所において「セヴェンヌ白」2千頭を試験飼育した。7.10月は、生繭と乾燥繭を座繰りし、繰糸の状況と製糸の状態について検討を行い、製糸方法について長野県の岡谷市にて、研究調査を実施した。8.12月は、製織方法について機物業社を訪ね、検討を行った。 9.平成25年3月には、カンボジア蚕種の養蚕農家を調査し、入手した繭の試験を研究機関に依頼し、蚕品種の検討を行った。 以上のように、研究計画の進捗状況は、極めて順調であることを報告する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最もオリジナリティを表すところは、蚕遺伝資源として保存されているフランス在来品種の育成であるが、この蚕遺伝資源を入手し、さらに、その蚕種(卵)の増種が順調に行われ、その蚕種の予備飼育試験が成功したことから、この研究の成果は、大いに期待できるものであるといえる。 本研究では、蚕業技術研究所の協力の下、蚕種を検討した結果、現在の蚕種は、飼育し易い蚕種に改良されているが、本研究で用いる欧州蚕種は、予備飼育試験でも、繊細で飼育が難しいということが判明した。 当初の計画では、養蚕農家に飼育を委託する予定であったが、温度・湿度管理や蚕に適した桑の植栽などの飼育環境の保持と衛生管理面、疫病対策などに優れる蚕業技術研究所から全面的な協力を得られたことは、このプロジェクトの高い成果が予想され心強い。 平成24年6月の蚕期から蚕品種「セヴェンヌ白」の蚕種(卵)の製造が蚕業技術研究所に於いて開始され、無事に繭がつくられ、それから繰糸する予備試験が成功したことは、ロココ時代の宮廷衣裳の復元用生地の制作にとって、大きな前進である。 さらに、この糸の風合いを最大限に活かし、かつ往時の手法を実行するために、岡谷市博物館での聞き取り調査や研究協力者との研究会を開催し、往時の技法である「座繰」の高い技術について検討を行った。 また、蚕業技術研究所の所長・井上元氏の紹介で、長野県の岡谷市の製糸業の熟練技術者の協力を得られ、往時の糸の風合いに近づけることが可能となった。 また、当初より研究計画され、蚕遺伝資源の在来品種の飼育のリスク管理として計画した、カンボジアの現地調査は、平成25年2月~3月に実施した。この調査では、カンボジア種の蚕種の養蚕の方法と蚕の生態や繭の状況など詳細に調査し、今後の本研究の養蚕と繰糸方法などの参考になった。また、養蚕の問題が発生した場合の対応策も確認し、準備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、I養蚕から製織について研究代表者の伊豆原月絵は、引き続き蚕業技術研究所の協力を得て1.平成25年5月(春蚕期)に、蚕遺伝資源の「セヴェンヌ白」6万粒の蚕種の飼育、「掃き立て」を蚕業技術研究所で行い、研究代表者は、その記録を担当する。2.平成25年6月30日から7月1日の間に蚕業技術研究所においてセヴェンヌ白の蚕がつくった繭を、「生繭」のまま、蚕業技術研究所よりクール宅急便で長野の製糸技術者に送付する予定である。それらを受け取った製糸技術者は、順次、座繰の方法で、繰糸を行う。また、研究代表者の伊豆原月絵は、その記録も行う。3.研究代表者の伊豆原月絵は、平成25年5月に研究協力者の富山弘基氏、吉田紘三氏と染色方法について検討会を開き、第一次資料の染織方法を確認したが、その後も毎月検討会を開催し、そこでまとめられた意見に基づき、4.平成25年8月には、製糸した糸を、山形在住の製織技術者に送り、天然染料により染色を行い製織することとした。5. 第一次資料のドレスの織物の復元的研究として、この欧州蚕種の繭を往時の技法で繰糸し染色する制作過程をビデオ・カメラで撮影し記録する。 II研究代表者の伊豆原月絵は、引き続き、神戸ファッション美術館所蔵の18世紀の宮廷衣裳のサイズ計測および縫製技法の調査を行う。第一次資料の糸および染色については、研究協力者の富山弘基氏、吉田紘三氏と引き続き調査を行い、検討を続ける。 III 研究協力者の吉田紘三氏は、平成25年12月よりセヴェンヌ白の生繭から座繰りした糸を用いて白生地を製織する。研究代表者の伊豆原月絵は、その製織した生地を用いてドレスを作成するために、デザインを行い、ドレス制作に着手する。IV 研究代表者の伊豆原月絵は中間報告書をまとめ、書籍を制作する作業を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
I平成24年度に研究遂行に必要とされ交付請求した金額に残額が発生した理由 当初は、平成24年度に蚕種(卵)の製造を蚕業技術研究所に於いて開始し、その蚕種を譲り受け、養蚕農家に飼育を委託する予定であった。しかし、蚕業技術研究所においての予備試験の結果、養蚕の管理が大変難しいということが判明し、養蚕農家への依頼を中止した結果、費用が発生せずに、研究費の残金が残った。 II 次年度の研究費使用計画 養蚕について:上期の残高については、次年度(平成25年度)の研究計画に基づき予算を使用していく予定である。養蚕は、衛生管理面も含めた飼育環境や疫病対策に優れる蚕業技術研究所に委託し、増卵した6万粒の蚕遺伝子源の譲渡料、および蚕種の飼育飼料代の支払いを行う。製糸、染色、製織、ドレス制作について:実費および謝礼の支払を行う。往時の製糸、染色、製織、縫製技術や美意識などについての文献調査費およびそれに基づいて開発した用具の支払いなど。以下に詳細をまとめると、 1.蚕業技術研究所に 2.輸送費、3.座繰りの製糸料 3.研究機関への分析依頼 4.蚕遺伝子原による養蚕および織物制作についての報告書作成の印刷費など 5.染色の謝礼金および染色材料などの実費 6.製織の謝礼金および実費 7.研究会開催費用8.ビデオ編集謝礼金および実費 9.蚕業技術研究所出張旅費10.養蚕、製糸および製織の現場への監督および調査記録のための出張旅費 10.神戸ファッション美術館への調査旅費 11.ドレス制作の参考文献購入費 12.ドレス制作の実費およびアシスタントへの謝礼 13.ドレス制作用機器のメンテナンス費用 14.用具代 15.中間報告発表会開催費用および招聘交通費および実費など、以上が研究費予算の使用計画である。
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