研究課題/領域番号 |
24520194
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
伊豆原 月絵 日本大学, 理工学部, 教授 (40440036)
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研究分担者 |
片岡 淳 琉球大学, 教育学部, 名誉教授 (30204415) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ロココ / 復元 / 宮廷衣裳 / 美意識 / 遺伝資源 / 養蚕 / 染織技術 / 絣 |
研究実績の概要 |
本研究は、ロココ時代の宮廷衣裳の復元的研究のために、欧州蚕品種の養蚕から製糸し、2種類の方法で考察した。1.無精錬で白生地を製織し、ドレス制作を行い、絹織物の風合いやフォルムについて検討を行った。2.往時の「シネ(絣)」の織物の復元を行い、その精緻な技法を再現し、記録映像資料を作成した。 1-①欧州蚕品種は、大日本蚕糸会蚕業技術研究所が保存している欧州蚕の原原蚕種(卵)を大日本蚕糸会の協力を得て、1年半かけて9万頭に育種した。②繰糸には、岡谷蚕糸博物館館長の高林千幸氏の協力を得て繰糸温度・速度について試験を行い検討した。③復元衣裳との比較検討に際しては、研究協力者の神戸ファッション美術館の主席学芸員の浜田久仁雄氏の協力を得られた。④製織は、研究協力者の吉田紘三氏が織り機を制作し、欧州蚕品種を用いて予備試験を行い、2014年7月、ドレス用の白生地を製織した。⑤その白生地の織物を用いて、ロココ時代の宮廷衣裳を元に伊豆原月絵がデザインし、高木麻里、澁谷麻耶がドレスを制作した。 考察及び結果:往時の手法の生繭の座繰りで繰糸をした糸は、現代の蚕に比べ白く艶と光沢があり、張りがあるため、ドレスの腰部分は、ふんわりと膨らみ曲線を描き、往時の宮廷衣裳のフォルムに近似した。 2-①シネの復元に際し、天然染料の調合・制作には、(㈱)田中直染料店の協力を得られた。②シネの織物復元は、京都・西陣にて、括りと摺り込みの技法を用いて行った。この糸は、染色・発色性に優れ、精緻な染織に適していた。 成果発表:2014年8月には、代表者の伊豆原月絵が国際服飾学術会議に於いて欧州の蚕品種と養蚕について発表した。また、2014年11月28日~29日のシルクサミットに於いて代表者の伊豆原月絵がこの復元研究の成果について招待講演した。その際、縫製したドレスを展示公開し、広く一般に研究成果を公開することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.欧州蚕品種の養蚕から、繰糸方法について検討し、製織した白生地のドレスは、代表者の伊豆原月絵が2014年11月に開催されたシルクサミットに於いて、招待講演およびドレスの展示を行うことで、織物や染織の専門家および一般市民に公開することができた。 2.シネ(絣)の織物については、往時の技術を再現して行ったところ、技術的にも高度であり、精緻な作業のため、計画には充分な時間を用意していたが、染色段階に於ける染色材料の検討や、整経を数回行うなど、復元をしてみないとわからなかった様々な工程があり、予定より時間を要した。しかし、染色作業の貴重な記録映像などの資料から、技術の伝承に役立てることができた。 3.手織りの作業は、糸が細く、また絣の柄合わせに時間が要することが予想されていたが、精緻な作業には、技術と時間を要し、往時の技術の高さが窺えた。また、往時の宮廷の衣裳には、職人が時間と手間を惜しまず、美しいものを求める美意識が高かったこともわかった。これらの織の過程と技術を記録することで、技術の伝承に寄与できると考えられる。 4.本研究は、養蚕からドレス制作を行うことで、文献調査では得られなかった繰糸、製糸、染色、整経、製織、縫製の技術の詳細を明らかにし、復元ドレスの制作過程でわかった縫製の技術やドレスのフォルムから往時の美意識についても明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、平成26年度までにほぼ達成できた。それは、欧州蚕品種を精錬せずに製織を行い、白生地の風合いを調査すること。また、その白生地によるドレスの制作から、フォルムを検討し、美意識を解明することであった。もうひとつには、往時の染色技法解明のために復元織物の制作を行い、白生地と染色織物の風合いを比較検討し、記録映像資料作成による伝統技術の解明とその技法の伝承が目的であった。 この度、本研究では、大日本蚕糸会蚕業技術研究所の協力により、欧州蚕品種の育種が成功し、繭を多く得られるという、稀に見る貴重な機会を得られたことから、平成27年度には、さらに研究を進め、天然染料を用いてシネ(絣・摺り込み)の技法で染色し、20メートルほどを製織したい。その際、この織りの工程についての記録映像を作成し、織手に、製織の問題点についても聞き取り調査を行い、技術の伝承のために資料を作成したい。 また、充分な復元織物を得られると考えられることから、これらを用いてロココ時代の宮廷ドレスの復元制作を行い、美意識とドレスのフォルムについて、さらに考察を進めたい。 ドレス制作の暁には、これらのドレス制作の成果を、学会やシンポジウムなどで、広く一般市民にも公開し、絹の需要と養蚕の復興に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の当初の研究目的は達成したが、平成26年度大日本蚕糸会蚕業技術研究所の協力により、欧州蚕品種の育種が成功し、繭を多く得られるという、稀に見る貴重な機会を得られたことから、平成27年度には、さらに研究を進め、シネ(絣・摺り込み)の技法で染色した糸を織り、シネの復元織物を用いて宮廷衣裳の復元を行うこととした。その工程についての記録映像を作成するための調査旅費および、資料作成費の支払いとして次年度に繰越した。
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次年度使用額の使用計画 |
製織過程の記録映像を撮影するために、京都の染織工房への旅費および、資料作成費に使用する予定である。
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