本研究は、18世紀のロココ時代のフランス宮廷衣裳の美意識を明らかにすることを目的とし、往時の欧州の蚕種を調査研究し、遺伝資源として保存されていた蚕種を飼育した。復元的研究では、オリジナルドレスのパターン、サイズ、縫製技法を再現するだけでなく、織物の風合いが、ドレスのフォルムに関係することから、衣裳の生地の風合いや美意識に拘り、蚕品種、製糸、染色、製織などの復元的研究を行った。 研究代表者の伊豆原月絵は、平成25年と26年の春蚕期と初秋蚕期に、蚕業技術研究所の協力を得て、欧州種(卵)を9万頭育成し蚕の養蚕を行った。この蚕種は、現行の改良された蚕種に比べ、原原種で小さく弱いため、繊細で弱く、育成が難しい。長年に亘り蓄積した養蚕に関する知力(温度・湿度管理や飼料など)に加え、熟練の技術と細やかな技術協力から、優れた研究成果が得られた。製糸は生繭から座繰りで繰糸をし、本研究の代表者と協力者が温度、速度について検討し、最も適する方法で行い記録した。また、代表者は、本研究の知見について、2015年6月にシルク学会に於いて、口頭発表を行った。フランスで得られた資料から染色試験を行い、染料を選定し、京都の染色研究機関の協力を得て試験を行い、西陣の伝統工芸士に摺り込みの技法による絣染を依頼し、天然染料で染織を行った。2015年秋からその糸を用いて、手機でシネを織り上げた。その絣織を用いて、ローブ・ア・ラ・フランセーズを制作した。科研の成果報告会を2016年2月に国際服飾学会と共催で開催し、服飾の専門家および一般の方々に向けて発表を行い、摺り込みの技法で染色されたローブ・ア・ラ・フランセーズ(ドレス)を展示し、公開した。 このように、原原種の蚕種の養蚕および製糸、染織には種々の問題が発生し、時間と高い技術力を要したが、各研究機関および専門家の方々の協力を得られ、当初の計画以上の成果を得られたことを、ここに報告する。
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