研究課題/領域番号 |
24520204
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
本井 牧子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00410978)
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キーワード | 類書 / 敦煌 / 金蔵論 / 法苑珠林 / 朝鮮本 |
研究概要 |
(1)『金蔵論』新出敦煌本写本の公刊:中国北朝末期に編纂され、完存本が伝わらない仏教類書『金蔵論』の復元研究は、本研究の主要課題のひとつである。24年度の研究期間中に、ロシア蔵の敦煌写本コレクション中にあらたな『金蔵論』断簡を確認したが、本年度はそれらの断簡をさらに精査し、検討を加えた上で、復元本文を公刊した(「新出の『金蔵論』敦煌写本」)。新出の断簡は4点であるが、そのうち3点は僚巻であり、これまでに確認されている部分には含まれない本文を含むものとして貴重である。新出本文が収載されていた巻や章については不明ながら、説話内容や配列は、他の残存部分と通底することが確認され、『金蔵論』の全体像解明にむけての一歩となった。 (2)『金蔵論』新出韓国版本の本文研究:『金蔵論』韓国版本については、巻一・巻二の本文がすでに公刊されているが、近年、韓国の研究者により、あらたな版本が陸続と確認されている。本年度は韓国の研究者より提供された写真等にもとづき、新出の巻三・四の基礎的な本文研究を進め、翻刻および本文校訂にかんしては一応の完成をみた。 (3)仏伝故事にかんする研究:24年度の研究を通じて、説話集や唱導資料をかんがえる上では、譬喩因縁譚のみならず、仏伝故事にかんしても、それを抄出、集成した文献を視野に入れる必要性がうきぼりになったことから、本年度は中国撰述の『釈氏源流』などの類書とともに、東大寺蔵『釈迦如来釈』や『釈迦の本地』といった日本の仏伝資料にも研究対象を広げ、写本・版本の調査を進めた。仏伝経典や類書などとともに、『法華経』の注釈に引かれる仏伝故事や因縁譚が大きな影響力をもつことがうかびあがりつつある点は特筆すべき成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
仏教類書の伝本調査・研究にかんしては、おおむね順調に進展している。特に、『金蔵論』の復元研究において、新出の敦煌写本を公刊したことは、特筆すべき成果である。 本年度は、対象を仏伝関連資料にも広げた結果、日本の説話集や唱導資料の成立においては、『法華経』などの経典注釈の世界における因縁譚や仏伝故事もまた、大きな役割を果たしている様相がうかびあがってきており、本研究のあらたな展開の足がかりとなるとかんがえられる。 研究成果の発信の面では、論文発表だけでなく、2つの国際的かつ学際的なシンポジウムにかかわることで、より効果的な発信が可能となった。まず、朝鮮半島における出版文化をテーマとするシンポジウム「朝鮮出版文化と中国・日本」(東方学会 平成25年度秋季学術大会)にパネリストとして参加、『金蔵論』の朝鮮半島における受容について発表したことにより、日韓の研究者へ成果を発信するとともに、朝鮮半島の出版にかかわる最新の知見を得ることができた。また、平成22年度より継続している第4回東アジア宗教文献国際研究集会を本年度は台湾の国立政治大学において開催し(広島大学敦煌学プロジェクト研究センターほかとの共催)、日本の唱導研究発信の一環として、譬喩因縁譚と仏伝故事という視点から、本研究の成果を一部公表した。以上の研究交流を通じて、内外のさまざまな分野の研究者との連携が構築されつつある。 以上のように、本研究は、研究の遂行、成果の発信の両面において、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)『金蔵論』の復元研究:散逸部分復元のためのさらなる資料探索とともに、韓国版本については、本年度作成した校訂本文にもとづく本文の読解をさらにおし進め、現物調査にそなえる予定である。 (2)仏教類書の諸本調査:『経律異相』『法苑珠林』『諸経要集』にくわえて、『大蔵一覧集』『釈氏源流』などにも対象を広げ、国内外の諸本調査を行う。 (3)説話集・唱導資料の調査研究:説話集だけでなく、仏伝関連の資料などにも対象を広げ、比喩因縁譚や仏伝故事などと、仏典、仏教類書との対照作業を進める。 (4)研究成果の公開と研究交流:国内外における研究成果の発信を積極的に進める。とくに、東アジア宗教文献国際研究集会については、すでに第5回の開催にむけて準備が進められており、これまでに構築してきたネットワークを生かして、さらなる発信、連携のかたちを模索したい。
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