1)『新古今和歌集』の文献学的研究、2)『新古今和歌集』の注釈学的研究、3)『新古今和歌集』古注の研究の三本柱につき、おおむね順調に研究を進展させ、成果をまとめることができた。とくに「藤原定家の百人一首歌」(2014年10月)は、1)~3)を総合しつつ、定家の創作方法について、新古今和歌集古注と密接にかかわる百人一首古注や新勅撰集古注を援用しつつ、「縁語的思考」の視点から新たな指摘を行った。「歌の〈かたち〉――源俊頼の場合」も、中世和歌の新古今時代の先駆的存在である源俊頼の表現意識について、縁語的思考の視点から、分析を行った。「「高砂」の和歌的世界」(2015年1月)は、世阿弥の謡曲「高砂」の分析を行ったものだが、これも中世和歌との関連性を指摘しつつ、世阿弥の「縁語的思考」を解析することで、その作劇法のレトリックの側面への新たなアプローチの方法を提示した。。「言葉によってどのように「心」が表現されるのか」(2014年7月)は、徒然草に関する論考ではあるが、中世和歌によって育てられた縁語的思考が、散文においても生かされ、固有の論理を持つ散文の達成となった経緯を析出している。また、『古典和歌入門』(2014年6月)・『絵で読む百人一首』(2014年10月)は、いずれも和歌の読解を主体としたものだが、2)および3)の成果を含んでいる。どちらも一般向けの書籍だが、研究成果を広く社会に還元するという意図を持っている。
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