研究課題/領域番号 |
24520207
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
柴田 勝二 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80206135)
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研究分担者 |
加藤 雄二 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60224549)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 日米関係 / 現代日本文学 / 現代アメリカ文学 / 戦後社会 / 天皇制 |
研究概要 |
研究代表者は三島由紀夫を中心として日本戦後文学における日米関係の表象について研究した。三島由紀夫は美の世界の探求者ないし天皇主義者として捉えられがちだが、その根底には戦後における日米関係への厳しい批判意識があり、1951年のサンフランシスコ講和条約による独立後も、安保体制下でのアメリカ従属がつづき、そのなかで次第に日本固有の精神性が失われていったという認識がある。『潮騒』『金閣寺』『鏡子の家』といった代表作にはいずれもそうした戦後批判が込められており、次第に浮上してくる天皇への志向も、現実の昭和天皇への尊崇の表明ではなく、あくまでも観念的に理念化された天皇への憧憬であり、昭和天皇自身はむしろ戦後日本の象徴として批判の対象に置かれていた。そこから1970年の自決がもたらされているが、こうした終戦から自決に至る三島の過程を作品と行動の両面から精査した成果を『三島由紀夫 作品に隠された自決への道』(祥伝社新書)にまとめて刊行した。また近代日本を代表する作家である夏目漱石のロンドン留学中の行動、思索を精査し、近代の知識人が西洋文化を受容するあり方を探求し、数本の論考にまとめた。 研究協力者は村上春樹、中上健次、村上龍など、アメリカ文化の影響を受けた日本の作家の特質を授業を通して探求し、後期においてはアメリカ・ハーバード大学での研修において、最新批評理論の吸収するとともに、ヘーゲルに代表される進歩主義的な歴史観のくびきから解き放つ観点から、現代作家の原点とも言うべきメルヴィルを中心とするアメリカ文学の研究をおこない、その論考をメルヴィル学会に提出した。 以上が研究代表者、研究協力者の2012年度の研究実績であり、研究の目的に沿った成果があげられているものと判断される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者はこの研究における中心テーマである戦後における日米関係の表象を、三島由紀夫という戦後を代表する文学者を対象として探求し、三島文学の本質を把握するとともに、戦後日本におけるアメリカの影響力の大きさを再確認した。また研究協力者は専門の対象であるメルヴィルに対する研究を深めるとともに、そこに見られるアメリカ現代文学の原点としての意義を把握し、さらに日本現代文学におけるアメリカ文化の影響力を確認した。これらは日本近現代文学におけるアメリカの表象という課題を追求する上できわめて重要な段階となったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は、現代日本の代表的な作家であり、またアメリカ文学の有能な翻訳者である村上春樹を対象として、多角的に論じた研究書を研究代表者、研究協力者の連携によって上梓する予定である。村上春樹は高校生時代からアメリカ文学に惹かれ、アメリカ作家の方法を消化することによってみずからも作品を書き出した作家であり、その後もアメリカ作家の作品の翻訳を多く手がけるなど、アメリカ文学との関係を保持しつづけている。その作品にはアメリカ文学だけでなく、日本の古典・近代文学の影響も色濃く、村上の作品自体が日米関係の縮図としての意味をもっている。 またそれとともに、日本生まれでありながら英語による作品を発表し、やはり現代を代表する作家となったカズオ・イシグロや、アメリカ人でありながら『万葉集』の研究・翻訳や小説作品の創作によって独自性を発揮し、日米の架け橋的な存在となっているリービ英雄なども研究の対象として代表者、協力者ともに取り組んでいき、2014年度に計画しているシンポジウムの準備段階を満たしていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者は主として国内の諸学会に参加するための旅費、及び当該作家を研究するための書籍、資料の購入に研究費を充てる計画である。研究協力者はアメリカへの学会出張、及び研究の遂行に必要な書籍・資料の購入に研究費を充てる計画である。加えて共通して紙・インク等の事務用品の購入にも充当される。
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