研究課題/領域番号 |
24520209
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
柏崎 順子 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (20262389)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 書誌学 / 出版 / 菱川師宣 / 挿絵 |
研究実績の概要 |
平成26年度の研究は、初期出版界の様相を考察するうえで鍵となる、娯楽的な分野全般にわたる挿絵の問題について考察するのが中心的課題であった。この挿絵の問題にアプローチするためには、この時期に娯楽本の挿絵として存在した菱川師宣風の挿絵の調査が必要不可欠である。というのは、本来は江戸の絵師である師宣の絵が江戸版に利用されるのは当然なのであるが、間々、上方の版本の挿絵にも見受けられるところから、師宣風の挿絵を調査、整理することによって、江戸と京都との出版界の関係性を考察する鍵となるからである。師宣の挿絵に関しては、延宝期以前の師宣風の挿絵と、延宝以前の師宣在名絵本という二つのカテゴリーでの調査が必要であったが、平成26年度は特に師宣絵本を大量に所蔵しているホノルル美術館のリチャード・レインコレクションを調査することができたのが、多大な研究の進展につながった。同じ場所に多数の師宣絵本があることによって、諸本の比較が可能となったからである。しかしこのホノルル美術館のリチャード・レインコレクションによって調査が進展し、師宣絵本を出版する書肆のおおよその整理がついたことにより、これまでの計画では延宝期以前の師宣風挿絵の問題と延宝期以後の師宣絵本の問題をそれぞれ個別にまとめる計画でいたのであるが、双方の様相と、加えて京都に存した師宣風以外の挿絵の調査も含め、書肆の傾向など、全体の様相としてまとめるべきと考えるにいたった。そこで平成26年度は師宣絵本および師宣風の挿絵についてまとめることを留保し、この双方の境界の時期の問題として残っていた、鶴屋喜右衛門の江戸版の考察をすることによって、それぞれの挿絵の利用される時期や傾向を考える参考となる論文をまとめた(柏崎順子「鶴屋喜右衛門」『言語文化』第51号)。その他、京都特有の挿絵の調査等も進展し、挿絵全体の様相をまとめるための材料の蓄積を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はたびたび研究の計画を変更せざるをえない事態となっているが、それは江戸初期出版界の様相を文学のジャンルを横断して考察するという、これまで研究の蓄積のない新たな方法で行っているためであり、むしろ次々と新たな問題点が見えてくることにより、研究をより掘り下げているといえる。平成26年度も当初の計画通り、師宣絵本についての研究として、まとめることはしなかったが、本来は一般公開していないホノルル美術館リチャード・レインコレクションの調査が実現したことなどにより、師宣絵本の書誌的調査が大きく進展し、研究全体をまとめていくにあたっての調査は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで初期出版界の様相を考察する手段として、延宝期以降のいわゆる師宣絵本を検討する方向で調査を進めてきたが、書誌学的な調査が進展した結果、料紙の質的変化の時期やジャンルによる傾向の有無等の考察が必要と考えるにいたった。今後は、その師宣風の絵が江戸版のみならず、京都の仮名草子や古浄瑠璃にもしばしば使用されている問題に着目し、御伽草子・古浄瑠璃・仮名草子・奈良絵本等、ジャンルを横断した視点で挿絵の問題を検討し、今後の課題もふくめて論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
複写希望資料の所蔵先の事情で、複写が年度内に届かないことが判明したので、平成27年度に改めて依頼することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
江戸初期の挿絵を有する京都版の複写に使用する。
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