研究課題/領域番号 |
24520211
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
林 正子 岐阜大学, 地域科学部, 教授 (30198858)
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キーワード | 森鴎外 / 民間伝承 / 民族文化 / 民俗学 / ドイツ伝説 / イコノロジー / 柳田國男 / ハインリヒ・ハイネ |
研究概要 |
本研究課題「近代日本の〈民間伝承〉による〈民族文化〉の創成――柳田國男のハイネ受容」において、平成25年度は、「近代日本(柳田國男以前および同時期)におけるハイネ受容の諸相」のうち、鴎外文学を主題とする原稿として、「森鴎外ドイツ三部作のイコノロジー――「絵画小説」の方法による作家の〈自画像〉創出――」(酒井敏・編著『森鴎外と美術』双文社出版 2014年6月刊行予定)を執筆した。ドイツの伝説・民間伝承(ハイネによるローレライ伝説)に造詣の深かった鴎外によるドイツ三部作において、日本人男性主人公の自己像獲得の〈挫折〉の〈物語〉を通して、作家自身の〈自画像〉創出の〈物語〉が浮き彫りにされていることを論じた。具体的には、イコノロジー(図像解釈学)の観点から、〈物語〉のトポスとクロノスの設定と連動する〈枠になる物語〉と〈枠づけられる物語〉による枠構成、〈物語り状況〉の設定、〈水〉のイマージュの醸成という意匠を論拠とした。 また、日本近代文学会東海支部・鴎外研究会共催シンポジウム「鴎外文学の水脈」(2013年3月30日 於愛知淑徳大学星ヶ丘キャンパス)での口頭発表原稿「鴎外による〈民俗精神〉と〈国民文化〉の追究――〈民族〉と〈民俗〉の関係性を視座として」をまとめた。 さらに、本研究課題における成果を広く地域社会にも発信する趣旨から、岐阜市読書サークル協議会現代文学講座(2013年4月9日、8月27日、12月3日、2014年3月4日)において、それぞれ多和田葉子『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』(岩波現代文庫)、宮田登『はじめての民俗学』(ちくま学芸文庫)、三浦佑之・赤坂憲雄『遠野物語へようこそ』(ちくまプリマー新書)、『近代浪漫派文庫16 柳田國男』(新学社)をテーマ本として、〈民間伝承〉による〈民族文化〉創成という民俗学と文学研究の接合の成果を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「近代日本(柳田國男以前および同時期)におけるハイネ受容の諸相を考察する」ことを当初計画の目標としていた平成25年度には、森鴎外の場合については、「研究実績の概要」に挙げたような論考をまとめることができたが、田岡嶺雲・高山樗牛ら、予定していた他の作家・文人についての考察が不足している。 また、ハイネの『ドイツ古典哲学の本質』に謳われたような、キリスト教以前の〈民間信仰〉に対しての「詩人のみに許される温かな共感」から、柳田國男の『民間伝承論』への影響を考察する課題について、十分な進捗を得られていない。すなわち、学問としての民俗学の開花を促したハイネの業績から、柳田が日本の民俗学を切り開く際に受けた具体的影響についての考究が今後の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
〈民間伝承〉による森鴎外の小説化の営為を考究した平成25年度を受けて、今後は、「近代日本(柳田國男以前および同時期)におけるハイネ受容の諸相」については、田岡嶺雲の「ハインリヒ・ハイネ」(「日本人」第8号~第12号 明治27年)、「厭世詩人ハイネ」(「太陽」第2巻第23号~第25号 明治29年)、高山樗牛の『ロマンツェーロ』序詞掲載「わがそでの記」(明治30年)等を対象として、それぞれのハイネ受容の諸相を考察する。 さらに最終年度の課題としては、次の3課題についても研究を進める。(1)〈民俗学〉の辞書的定義の変遷を調査する。 (2)〈民間伝承〉の由来を調査する。 (3)〈民間伝承〉から〈民族文化〉創出へのプロセスを考察する。 (1)については、柳田國男『民俗学辞典』(1951年)、和歌森太郎『日本民俗事典』(1972年)、福田アジオ『日本民俗大辞典(下)』(2000年)を参照して、〈民俗学〉の辞書的定義の変遷を調査する。(2)については、民俗学が〈民間伝承〉を題材とする研究であるとの規定が為された過程を明らかにする。具体的には、髙木敏雄が雑誌「郷土研究」で「伝承」の用語を使ったことを受け、柳田國男が慶應義塾大学史学科での講義「民間伝承」の成果を活かして執筆した『民間伝承論』(共立社 1934年)を考察対象とする。(3)については、昭和10(1935)年に柳田を中心として設立された「民間伝承の会」が、昭和24(1949)年には「日本民俗学会」と改称されて、大学にも講座が設置されてゆくといった、〈民俗学〉の発展の軌跡をたどる。 最終的には、ハイネにおけるフォークロアやエスノロジーが、古代との連続性を持つ基層文化を明らかにしようとしたのに対して、民俗学の目的を常民生活の歴史的変遷と同時代の生活文化との関係を考察することにあるとした柳田民俗学の位相を確認することをめざしている。
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次年度の研究費の使用計画 |
残高が117円という少額であったため、用途にかなった物品費とすることができなかったため。 最終年度の直接経費700,000円と合わせて、適切な物品(ファイル等)を購入する予定である。
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