本研究課題「近代日本の〈民間伝承〉による〈民族文化〉の創成」について、平成26年度は、日本比較文学会九州大会(2014年7月5日 福岡工業大学)での招待講演にて、「近代日本の〈民族精神〉と〈国民文化〉ーー鴎外・樗牛・嘲風におけるドイツ思想の受容」と題する口頭発表をおこなった。森鴎外、高山樗牛、姉崎正治(嘲風)の小説・評論を主な考察対象として、国民国家確立期の日本における〈民族精神〉が〈国民文化〉を希求する実相を明らかにした。具体的には、鴎外におけるドイツ留学体験とドイツ思想受容の意義を再確認するとともに、樗牛と嘲風における〈民族精神〉論を考察し、鴎外の〈民族精神〉の文学化の営為との比較考察をおこなった。さらに、柳田國男の『民間伝承論』などを媒介とすることで、近代日本の〈民族精神〉による〈国民文化〉のダイナミズムと連動する、鴎外・樗牛・嘲風における〈歴史〉に対する〈神話〉の意義、〈伝説〉の小説化の軌跡についても論究した。 また、論文「森鴎外ドイツ三部作のイコノロジー――「絵画小説」の方法による作家の〈自画像〉創出」を、『森鴎外と美術』(鴎外研究会・編 双文社出版 2014年7月)に掲載した。『舞姫』『うたかたの記』『文づかひ』を、それぞれ独立した固有の作品としての分析をおこなうとともに、三部作を総体として考察する視点を提示した。近代日本国家のエリートである主人公たちにとっての異郷ドイツにおける〈非日常空間〉が、〈水〉のイマージュによって表現されており、その主題と方法を表象する〈絵画性〉が、〈枠小説〉の構造に起因するのみならず、〈枠小説〉というキャンバスに描き出された〈水〉の形象とイマージュに由来すること、ドイツ三部作は「絵画小説」としての条件を具えているのみならず、その主題・方法・構造によって、鴎外の〈自画像〉が浮き彫りにされていることを考察した。
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