今年度は、明治期における子どもの読書活動の社会的位置づけを明らかにすることを目的に、文学関連雑誌を検討した。検討した文学関連雑誌は、『文藝倶楽部』(博文館)と『帝国文学』(帝国文学会)の他に、文芸色が強い総合雑誌であった『太陽』(博文館)を加えた三誌である。 文学関連雑誌における読書関連記事を収集・検討した結果、学生風紀問題のもとで青少年が小説を読むことについて否定的な見解を示している記事が掲載されている一方で、小説の意義として青少年に対する教育的効果を主張する記事も散見された。このことは文学者の間で小説に対する共通理解が形成されていなかったことを意味しているが、前者の小説有害論が稗史小説観ではなく有害図書観に基づくものであったこと、後者の小説の教育的効果という主張からは学生風紀問題などで有害とされた小説に対する自己防衛的な態度が示唆される結果となった。 とりわけ、注目されたのは、「青年」を対象とした読書観と「少年」を対象とした読書観との間の相違である。「青年」の場合は小説を擁護する論者が「少年」の場合は小説を禁止するような論調は、前年度の検討対象であった教育雑誌においても認められた傾向であったが、文学者の間でも上述したような教育的態度が認められた。このような読書観は、子ども向けの読み物とは何かという論点を含んでおり、小説とは差異化された児童文学観の形成および児童文学作品の成立を促したと考えられる。
|