今年度は、博文館から刊行された少年雑誌における課外読物関連記事を収集し検討を加えた。さらに、最終年度であるため、これまでの研究成果を踏まえ、「小説」が有害であるとみなされていた明治期において、青少年の読書が許容されやすいジャンルについて検討を重ねた。 検討の結果、「冒険小説」の感化力について、以下の示すような両義的な評価が明らかとなった。「冒険小説」の向社会的側面に着目した場合には教育的効用が主張される一方で(「海国少年」の「養成」に貢献する等)、「冒険小説」の反社会的側面に着目した場合には有害視されていた(犯罪行為を模倣したり、政治的行動に誘発したりする等)。 以上のような「冒険小説」をめぐる社会的評価の振幅には、小説有害論ひいては課外読物規制を背景に、教育的効用を評価軸とした排除と包摂を通して児童文学というジャンル自体が正統化され、社会的地位を獲得する過程が集約されていると考えられる。 なお、公表した研究の成果としては、『神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要』第8巻第1号(2014年9月)に論文を発表したこと(論文題目「明治期後期における課外読み物観の形成過程―『太陽』における「小説」観に着目して―」)、日本児童文学学会第53回研究大会(於・京都女子大学)において口頭発表したこと(発表題目「明治期における教育雑誌にみる「冒険小説」観」)、助成期間内において発表した論文等を研究成果報告書としてまとめたことが挙げられる。
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