『台湾愛国婦人』は、資料的に重要な雑誌であるにもかかわらず、かなりの部分が失われており、本研究の申請時に所在が確認できたのは全88巻のうち半数に満たない状態であった。そこで、本研究ではまず新たな資料を発掘・収拾し、雑誌の全体像をより明確にすることを第一の目的とした。実は、本研究の申請時から開始時までの間に、本研究の研究分担者である下岡友加が函館市中央図書館に29冊所蔵されていることを発見し、うち13冊分の目次を雑誌で報告している(『近代文学試論』49号)。これ自体は期間外の業績であり本研究の実績にはカウント出来ないが、こうした成果を踏まえてさらに欠落部分を埋めて行こうと努めた。その結果であるが、完本として見つかったのは、財団法人半線文教基金会台湾文化資料館から国史館台湾文献館に寄託されている第61巻のみであった(これについても下岡が雑誌に報告している)。この他、台湾在住の陳慶芳氏が第63巻を所蔵していることを確認したが、これは他の館でも所蔵されており、すでに報告もなされているものであった。この他には断片的な資料にしか出会えなかったが、現段階で可能な調査は尽くしたと考える。 次に内容的検討であるが、下岡は第61巻所載の与謝野晶子の詩「酒場の一夜」を紹介し、これが単行本『夏から秋へ』で初出誌不明とされていた詩3編のうちの1編であることを示すとともに、他の2編も未発見の『台湾愛国婦人』に掲載されていた可能性を指摘した。また、押川春浪の掲載作3点の分析も行い、これらが従来知られていなかった作品であることを示すとともに、「蕃社の悲劇」といった作品が台湾在住の後続にも影響を与えて、台湾をよく知る者自身に台湾の文学表象をなさしめる契機になったことを指摘した。このように、本誌の歴史的、文学史的重要性の一端を明らかにした。
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