当該年度の成果としては、何といっても本研究の申請時からの目標であった海外の学会での成果発表を行うことができた(EAJS)ことであろう。しかも、過去3回の発表経験の中で、今回の発表が最も海外の研究者から注目され、発表中や発表後に多くの質問が出た。次に、論文については、昨年度の研究発表に基づくものを1本にまとめ、共著として公表することができたが、それ以外にも2本の論考を完成させた。ともに入稿済みであるが、うち1本は先に挙げた海外の学会での成果発表に基づくものであり、もう1本は『源平盛衰記』をテーマとしたものである。次に資料の電子化と公開について、『アイ嚢鈔』の電子化の作業は計画通りに進んだとはいいがたいが、『帝鑑図説』和訳本の電子化については順調に作業が進み、本科研終了時の27年3月末日時点で全12巻中11巻までの作業が終わった。(10巻まで公開済み)本科研の期間内に終えることはできなかったが、27年度中には終了し、公開する予定である。なお、本研究を進める中で、中世後期の武家故実と百科事典的な物語との関係が明らかになってきた。幸いにして、その問題をさらに解明するために新たに申請した「中世後期における百科事典的作品と武家故実の相関性に関する基礎的研究」(課題番号:30353311)が27年度の基盤研究(C)で採択された。今後は、本研究で達成できなかった基礎作業を継続しながら、乱世における政治や文化を支えた「知」のありようや意味といった問題を、百科辞典的な作品群と武家故実の相関性という視点から解明していきたい。
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