研究課題/領域番号 |
24520222
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
伊藤 伸江 愛知県立大学, 日本文化学部, 教授 (30259311)
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研究分担者 |
奥田 勲 聖心女子大学, 文学部, 名誉教授 (90007948)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際情報交換(アメリカ) |
研究概要 |
本年度は、研究対象心敬の連歌表現分析や心敬の属する文化圏の研究に必須と思われる百韻として、彼が宗匠として参加した早大図書館蔵『「撫子の」百韻』を選び、まずその注釈を行なった。さらに、注釈をもとに、宗匠心敬の百韻の運営方法と影響力をはかり、式目の実施、百韻の進行のさせ方などについて考察を行ない、論をまとめた。また、今までの百韻注釈の成果を基に、心敬の和歌の師である歌人正徹の和歌と、心敬の和歌・連歌について解説したコレクション日本歌人選『正徹と心敬』(笠間書院・2012)を刊行した。 『「撫子の」百韻』は、心敬と管領細川勝元及びその家臣が同席して張行した百韻であり、この百韻の注釈によって、法華宗徒・有力武士を中心とする関東下向以前の心敬の交友関係のうち、管領細川氏との関係を調査することができ、心敬がその和歌の師、正徹の影響によって属した文化圏の概要、という重要な問題の解明が進んだ。かつ、和歌の影響の濃い心敬の句作を見ることにより、武士たちの参加する稚拙な部分もある百韻に、歌の詞がいかに取り入れられ学ばれていたかが把握でき、武士の参加する百韻の句の特質解明につながった。さらに、心敬の指導方法に着目した分析で、百句をいかに進行させていくか、複数の作者の出句の順をいかに決めておくかといった、これまで明らかにされてこなかった百韻進行手順を句の詳細な検討から推定しうることを論じえたのは、具体的な注釈によって導き出したものである点、説得力のある成果となった。 この百韻には宗祇も同座しており、両者の句作の影響関係、また相違点が指摘でき、初学期の宗祇の句風の研究にも有効であった。宗祇とその弟子兼載につながっていく、心敬の指導が推定でき、心敬に流れ込み、また心敬から流れ出す和歌の連歌への影響のありさまを明らかにしていくという、今後の研究課題がよりはっきりと見通せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、心敬の作品(百韻・和歌・自注など)の読解によって、心敬の文学的・思想的ネットワークを明らかにすると共に、特に新撰菟玖波集の編者である宗祇が心敬の連歌にいかに影響を受けたかを解明することである。本年度の研究では、『「撫子の」百韻』の注釈をすることにより、心敬の句作と指導方法、心敬と細川氏との関係、心敬と宗祇の句の影響関係と相違点等に関し、調査・研究を進めることができ、計画に沿って研究を進めることで各種成果をあげている。さらに、具体的な百韻張行方法が解明でき、心敬の句の概説書の出版もでき、宗祇から兼載へと研究の視野が広がる見通しも立ったことから、当初の計画以上に進展していると言う事ができる。
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今後の研究の推進方策 |
心敬の文学活動のうち、関東下向以後の活動に的をしぼり、百韻をえらんで注釈をなす。注釈の過程で見える問題点を検討することにより、心敬の宗祇、兼載らに及ぼした影響力をはかり、その文学の広がりを把握することができるはずである。また、歌人として、正徹の強い影響下にあった心敬の和歌自注作品にも眼を向け、従来、連歌作品や連歌論の業績の陰に隠れて注目されてこなかった、万葉などの心敬の歌学の教養についても論をなす。正徹、心敬から宗祇、兼載へという、純正連歌の形成過程における和歌の影響、連歌作者の観点から見た和歌と連歌の相互関係の有様を明らかにするために必要となる研究である。これらの研究を総合して、和歌、連歌いずれをも駆使し、融合させて作品を生み出していた心敬の新しい全体像の把握をめざしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度三月に実施予定であった、心敬年譜作成のための実地調査が、次年度にずれこみ、そのため、次年度にその費用を使用した調査を計画している(例えば、次年度五月に伊勢原市周辺を調査する予定)。また、次年度は、今年度訳注した『「撫子の」百韻』の新たな観点からの考察などを含め、今までの業績と新たな業績をまとめた紙媒体での発表を予定しており、今年度から次年度にまたがって、原稿作成,校正その他の作業がなされるため、今年度分の研究費から費用を次年度に確保して使用する。
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