研究課題/領域番号 |
24520223
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小林 直樹 大阪市立大学, 文学研究科, 教授 (40234835)
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キーワード | 無住 / 宗暁 / 法華経顕応録 / 法華伝記 / 南宋 / 三学 / 遁世僧 / 高野聖 |
研究概要 |
無住が直接参照したことが確実視される稀覯文献、南宋・宗暁撰『法華経顕応録』について前年度に引き続き考察を行った。無住は自身の著作にこの『法華経顕応録』とともに唐・僧祥撰『法華伝記』を用いているが、後者を「唐ノ法華伝」とするのに対し、前者は単に「伝」とだけ記して、両者を截然と区別するとともに、一見後者を高く評価する姿勢を見せている。だが、「唐ノ法華伝ニ見タリ」として引かれる説話は、実は『法華伝記』だけでなく『法華経顕応録』にも同話が収められており、その本文を詳細に比較すると、同文性においては前者よりも後者との一致度が高く、無住の『法華経顕応録』重視が判明する。 『法華経顕応録』の撰者宗暁は天台浄土教の学僧であるが、戒律・禅定・智慧のいわゆる三学が重視された南宋の仏教界に身を置いた者だけに、本書所収の伝には戒律や禅定に関わる記述が、唐代の『法華伝記』に較べはるかに多い。やはり南宋仏教界の雰囲気を伝える東福寺をはじめとする禅院で学び、戒律や禅定に強い関心を示す無住にとって、『法華経顕応録』の持経者伝は、その点で極めて魅力的なものだったと推定される。他方、自身法華持経者であり、法華講讃を手がけることもあった無住は、平安時代以来、法華講経の場において尊重されてきた『法華伝記』の権威も無視することはできず、その結果、表向きは『法華伝記』の書名を掲げながら、実際には『法華経顕応録』に依拠して説話構成を行ったものと推測、伝統と新風がせめぎ合う直中にある無住の学問の一端を明らかにした。 一方、上記の三学重視の姿勢は、無住著作中の遁世僧説話にも反映されるが、本年度はそれらのうち上野国の遁世僧・行仙の説話に注目し、『念仏往生伝』や『一言芳談』などを資料としながら、無住と行仙を繋ぐ高野聖のネットワークの存在についても考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無住の学問基盤と遁世僧ネットワークの究明に関して、今年度の研究計画で予定していた部分については、ほぼ調査を完了することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
無住の学問基盤については、『宗鏡録』や『肇論』との影響関係を中心にさらに踏み込んだ調査・考察を展開し、あわせて無住をめぐる律僧のネットワークについても、禅僧のそれとの関係に注視しながら研究を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度末に行った製本の費用が、当初予定していた額よりも安価に実施できたため生じたものである。 次年度実施する文献複写の費用に充当する予定である。
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