最終年度は、十一月に全国大学国語国文学会で研究成果を「多変量解析から見る、万葉短歌の一般性と特殊性―巻を単位として―」と題して発表した。 短歌の初句の第一音から結句の第三一音まで、「あ」~「を」が、それぞれ何例あるかを調査する。たとえば、初句の最初の音(第一音)は「あ」が最も多く(六五三例)、結句の最後の音(第三一音)は「も」が一番多い(八七五例)。「あ」から歌い起こし、「も」で終わる短歌は一〇〇首を越え、たしかに、歌数の上では多いことがわかる。しかし、勿論、これらの歌々を万葉短歌の典型ということはできない。第一音~第三一音までの全てを総合的に把握し、どの歌が万葉短歌の中で一般的であり、どの歌が一般的ではないかを、多変量解析の一手法である1-class Support Vector Machineを用いて統計的に解析する。そして、その結果を巻毎にまとめ、どの巻が『万葉集』全体の中にあって、特殊といえるかどうかを、超幾何検定という統計的検定手法を用いて探った。その結果、特殊仮名遣いを考慮するしないに関わらず、巻十四と巻十六とが、一般的な万葉短歌のありようから大きく外れることが判明した。また、特殊仮名遣いを考慮した場合、巻十二は万葉全体の中で極めて一般的であることも判明した。巻十二の歌々は我々が「万葉歌」と感じる典型的な歌が揃っていることになる。 また、昨年、上代文学会秋季大会で発表した内容を、現在投稿中である。こちらは文字の用い方にる書記者同定がどの程度可能かを考えたものである。
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