近年、歴史研究のみならず周辺諸学においてもその動向が注目され、時代の様相が次第に明らかになってきた藤原頼通の時代の状況について、その事績や周辺資料を整理し、文化的側面からの再評価を行うのが本研究の目的であった。諸般の事情から研究期間を1年延長し、最終年度にあたった27年度は、近接諸学の研究成果も含めて資料を収集してきた成果を総合的に検討し、その結果の一部を、以下の2つの論考に反映させた。 (1)『狭衣物語』にみる頼通の時代 (2)大将たちの「もの思はしさ」ー『源氏物語』を継ぐ時代のつくり物語ー 前者は、頼通の執政下の長元4年に起きた伊勢斎宮託宣事件が、全体の構想にかかわって『狭衣物語』の物語世界に取り込まれた可能性があることを指摘した。『後者については、長和4年に、三条帝から道長に申し出のあった頼通への二の宮降嫁の話題が取り込まれた可能性を指摘した。いずれも『狭衣物語』の当代性の強い側面に焦点を当てて論じたものである。ふたつの論考を通して、つくり物語の世界では皇位継承への強い関心がうかがわれること、後継者問題に悩む摂関家の状況が垣間見えることを確認できた。現実世界の状況が物語世界の構築に深いかかわりを持っていることを、これまでの研究とは異なる側面から指摘しえたのは収穫であると考えている。『源氏物語』の達成を見たのち、『源氏物語』からの連続性と、文化世界の庇護者であった頼通執政下の状況を盛り込む当代性が『狭衣物語』にみられることを指摘したことで、50年の長きにわたって摂関家の頂点にあった頼通を中心とする文化世界の性格の一端を明らかにできたと考えている。 なお、ふたつの論考については報告書に代わる成果物と位置づけているが、いずれも28年度中に刊行される書籍、雑誌に掲載予定である。
|